市内を流れる普通河川について市が法律上の管理権をもたない場合であつても、もと農業用水路であつた右河川が周辺の市街化により都市排水路としての機能を果たすようになり、水量の増加及びヘドロの堆積等によりしばしば溢水したため、市が地域住民の要望にこたえて、都市排水路の機能の維持及び都市水害の防止など地方公共の目的を達成するために河川の改修工事をしこれを事実上管理することになつたときは、市は国家賠償法二条一項の責任を負う公共団体にあたる。
普通河川を事実上管理する市が国家賠償法二条一項の責任を負う公共団体にあたるとされた事例
国家賠償法2条1項
判旨
国家賠償法2条1項にいう「管理者」には、当該営造物について法律上の権限を有していなくても、事実上の管理を行っている国や公共団体も含まれる。市街地の普通河川について、地方公共団体が都市施設としての機能維持等の目的で改修工事等を行い、事実上の管理をしている場合には、同条の賠償責任を負う。
問題の所在(論点)
法律上の管理権を有しない地方公共団体(京都市)が、普通河川の改修工事等を行ったことにより、国家賠償法2条1項の「管理者」として責任を負うか。
規範
国家賠償法2条1項にいう公の営造物の管理者は、必ずしも当該営造物について法律上の管理権ないしは所有権、賃借権等の権原を有している者に限られない。事実上の管理をしているにすぎない国又は公共団体であっても、同条にいう管理者に含まれると解するのが相当である。
重要事実
本件溝渠(普通河川)の敷地は国または府の所有であり、府が条例に基づき管理権を有していた。しかし、上流の住宅密集化に伴う溢水問題を解消するため、京都市(上告人)が周辺住民の要望を受け、府と相談の上で自ら設計・監督して本件溝渠の改修工事を請負業者に施行させた。その工事完了区間付近において、児童(被上告人らの長男)が転落・溺死する事故が発生した。
あてはめ
地方自治法2条3項2号が河川等の管理を地方公共団体の事務として掲げているのは、これらが地域住民の生活に密着した施設であるため、最も近い地方公共団体が管理することが適当だからである。京都市は、地域住民の要望に応え、都市排水機能の維持や水害防止という地方公共の目的を達成するために本件改修工事を行った。この行為により、京都市は本件溝渠について事実上の管理をすることになったといえる。したがって、法律上の管理権が国や府にあるか否かにかかわらず、京都市は同項の管理者に該当する。
結論
京都市は事実上の管理者として国家賠償法2条1項の責任を負う。本件溝渠の管理に瑕疵があったとされる以上、京都市は損害を賠償する義務がある。
実務上の射程
営造物責任の主体を画定する際の重要判例。形式的な権限(設置主体・管理権者)がない場合であっても、実質的に公の目的で管理・支配している実態があれば責任を問えることを示した。答案上は、まず法律上の管理者を特定した上で、予備的に、あるいは法律上の管理者が不明確な場合に「事実上の管理者」の法理として引用する。
事件番号: 昭和53(オ)76 / 裁判年月日: 昭和53年7月4日 / 結論: 棄却
営造物の通常の用法に即しない行動の結果事故が生じた場合において、その営造物として本来具有すべき安全性に欠けるところがなく、右行動が設置管理者において通常予測することのできないものであるときは、右事故が営造物の設置又は管理の瑕疵によるものであるということはできない。