「あられ菓子の製造方法」に関する特許発明の明細書中の特許請求の範囲において、第一工程中の餅生地の冷蔵温度を「3乃至5°F」とした記載が、当該特許発明の構成に欠くことができない事項の一であつて、その記載自体きわめて明瞭であり、また、「3乃至5°F」と「3乃至5℃」との差が顕著であるにもかかわらず、明細書の全文を通じ一貫して「3乃至5゜F」と記載されており、当業者であれば容易にその誤記であることに気づいて「3乃至5℃」の趣旨に理解するのが当然であるとはいえない等判示の事情があるときは、右の「3乃至5°F」の記載を「3乃至5℃」と訂正することは、特許法一二六条二項にいう実質上特許請求の範囲を変更するものとして許されない。
明細書中の特許請求の範囲等における誤記の訂正が実質上特許請求の範囲を変更するものとして許されないとされた事例
特許法126条
判旨
特許法126条2項(現行126条5項・6項相当)にいう「特許請求の範囲の実質的な拡張又は変更」の判断は、特許請求の範囲の記載を基準とすべきであり、明瞭な記載の誤記を訂正することが、表示を信頼した第三者の利益を害する場合には、当該訂正は許されない。
問題の所在(論点)
特許請求の範囲に記載された発明の構成に欠くことができない事項について、明らかな誤記を訂正することが、特許法126条2項(当時)にいう「特許請求の範囲の実質的な拡張又は変更」に該当し、許されないとされるか。
規範
訂正の適法性は、対世的な効力範囲を明確にする特許請求の範囲の記載を基準に判断すべきである。訂正が「実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するもの」にあたるか否かは、明細書全体の記載を参酌してもなお、当業者が容易に誤記であると理解できず、訂正前の表示を信頼する第三者の利益を害するかという観点から、慎重に判断されなければならない。
重要事実
特許権者である上告人は、餅生地の冷蔵温度について、特許請求の範囲および明細書全文にわたり「3乃至5°F(華氏)」と記載していた。しかし、実際には「3乃至5°C(摂氏)」の誤記であったため、訂正審判を請求した。なお、華氏と摂氏では約16度の顕著な差があり、完成品である焼成品の品質に著しい影響を及ぼすものであった。
あてはめ
本件の「3乃至5°F」という記載は、それ自体で意味が明瞭であり、他の項を参酌せずとも理解できる。また、華氏と摂氏の温度差は顕著であり、焼成品に著しい差異を生じさせる。明細書全文で一貫して「°F」と記載されている以上、当業者が当然に「°C」の誤記であると気づくとはいえない。したがって、出願人にとって誤記が明白であっても、表示を信頼する一般第三者との関係では「°F」として公示されたものとみるべきである。
結論
本件訂正は、特許請求の範囲の表示を信頼する一般第三者の利益を害するものであり、実質上特許請求の範囲を変更するものにあたるため、許されない。
実務上の射程
特許請求の範囲の記載が明瞭である場合、たとえ客観的に誤記であっても、第三者の予測可能性を重視し、安易な訂正を認めないという厳格な基準を示した。答案上は、訂正の許否を検討する際、第三者の信頼保護と特許権者の権利救済の調整の場面で引用すべき重要判例である。
事件番号: 昭和40(行ツ)31 / 裁判年月日: 昭和44年7月8日 / 結論: 棄却
原審認定の事実関係(原判決理由参照)のもとに蔚いて、審決引用の外国刊行物は、本件特許出願前わが国内において頒布され、その記載内容が公知の状態にあつたものというべきである。)(原審東京高裁昭和三五年(行ナ)第四二号昭和四〇・二・二五判決、行政例集一六巻二号二四七(頁登載一九事件参照。)