一 将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約の締結時において目的債権の発生の可能性が低かったことは、右契約の効力を当然には左右しない。 二 医師が社会保険診療報酬支払基金から将来八年三箇月の間に支払を受けるべき各月の診療報酬債権の一部を目的として債権譲渡契約を締結した場合において、右医師が債務の弁済のために右契約を締結したとの一事をもって、契約締結後六年八箇月目から一年の間に発生すべき目的債権につき契約締結時においてこれが安定して発生することが確実に期待されたとはいえないとし、他の事情を考慮することなく、右契約のうち右期間に関する部分の効力を否定した原審の判断には、違法がある。
一 将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約の締結時における目的債権の発生の可能性の程度と右契約の効力 二 医師が社会保険診療報酬支払基金から将来支払を受けるべき診療報酬債権を目的とする債権譲渡契約の効力を否定した原審の判断に違法があるとされた事例
民法466条,健康保険法43条ノ9第5項,社会保険診療報酬支払基金法13条1項
判旨
将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約は、対象債権が特定されている限り、発生の可能性が低かったとしても当然には無効とならない。ただし、契約内容が譲渡人の営業活動を著しく制限し、又は他の債権者に不当な不利益を与える等の特段の事情がある場合に限り、公序良俗に反して無効となる。
問題の所在(論点)
将来の一定期間内に発生する債権を一括して譲渡する契約において、発生の可能性(確実性)の程度が譲渡契約の有効性に影響するか。また、どのような場合に公序良俗違反として無効となるか。
規範
1. 債権譲渡の有効性には、譲渡の目的とされる債権が、発生原因や額等によって「特定」されていることを要する(期間の始期・終期の明確化など)。2. 将来債権の発生の可能性が低いことは、直ちに契約の効力を左右しない。3. ただし、契約締結時の資産状況、営業見込み、契約の経緯等を総合考慮し、(1)譲渡人の営業活動等に対して社会通念上相当な範囲を著しく逸脱する制限を加え、または(2)他の債権者に不当な不利益を与える等の「特段の事情」がある場合には、公序良俗(民法90条)等により効力が否定される。
事件番号: 平成12(受)194 / 裁判年月日: 平成13年11月22日 / 結論: 破棄自判
甲が乙に対する金銭債務の担保として,甲の丙に対する既に生じ,又は将来生ずべき債権を一括して乙に譲渡することとし,乙が丙に対して担保権実行として取立ての通知をするまでは甲に譲渡債権の取立てを許諾し,甲が取り立てた金銭について乙への引渡しを要しないとの内容のいわゆる集合債権を対象とした譲渡担保契約において,同契約に係る債権…
重要事実
医師Dは、債権者である上告人に対し、約8年間にわたる将来の診療報酬債権(合計約7900万円)を譲渡する契約を締結し、対抗要件を備えた。その後、国税局(被上告人)がDの滞納処分として、上記譲渡期間内の診療報酬債権を差し押さえた。被上告人は、譲渡開始から長期間(約6年7ヶ月)経過後に発生する債権の譲渡は、発生の確実性が低く無効であると主張して、取立権の確認を求めた。
あてはめ
本件契約では、期間及び譲渡額が明確に特定されており、対抗要件も具備されている。医師が診療所開設等のために多額の債務を負い、将来の収益を担保に融資を受けることには合理性があり、直ちに経済的信用状態の悪化や営業活動への不当な制限とはいえない。また、本件では譲渡人の資産状況や契約の経緯において、公序良俗に反すると評価すべき「特段の事情」を基礎付ける証拠も存在しない。したがって、発生の可能性が低いことをもって直ちに無効とすることはできない。
結論
本件債権譲渡契約は有効であり、被上告人の請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
将来債権譲渡の「特定」の要件を緩和し、公序良俗違反の判断枠組みを明示した重要判例である。司法試験では、集合債権譲渡予約や将来債権譲渡の有効性が問われた際、本判例の「特段の事情」の枠組みを用いて、期間の長さや譲渡人の生計への影響から90条違反の成否を論じるのが定石である。
事件番号: 平成19(受)1280 / 裁判年月日: 平成21年3月27日 / 結論: 破棄自判
譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者が同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張することは,債務者にその無効を主張する意思があることが明らかであるなどの特段の事情がない限り,許されない。
事件番号: 平成5(オ)1164 / 裁判年月日: 平成9年6月5日 / 結論: 棄却
譲渡禁止の特約のある指名債権について、譲受人が特約の存在を知り、又は重大な過失により特約の存在を知らないでこれを譲り受けた場合でも、その後、債務者が債権の譲渡について承諾を与えたときは、債権譲渡は譲渡の時にさかのぼって有効となるが、民法一一六条の法意に照らし、第三者の権利を害することはできない。
事件番号: 平成14(受)240 / 裁判年月日: 平成14年10月10日 / 結論: 棄却
債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律2条1項に規定する債権譲渡登記に譲渡債権の発生年月日の始期(平成10年法務省告示第295号3(5)の項番24)は記録されているがその終期(同項番25)が記録されていない場合には,当該債権譲渡登記に係る債権譲渡が数日にわたって発生した債権を目的とするものであったとしても,…
事件番号: 平成11(受)1519 / 裁判年月日: 平成15年4月18日 / 結論: その他
1 法律行為が公序に反することを目的とするものであるとして無効になるかどうかは,法律行為がされた時点の公序に照らして判断すべきである。 2 証券取引法42条の2第1項3号が,平成3年法律第96号による同法の改正前に締結された損失保証や特別の利益の提供を内容とする契約に基づいてその履行を請求する場合を含め,顧客等に対する…