後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができない。
後順位抵当権者と先順位抵当権の被担保債権の消滅時効の援用
民法145条,民法369条,民法373条1項
判旨
民法145条の「当事者」とは、時効により直接に利益を受ける者に限定される。後順位抵当権者は、先順位抵当権の消滅により順位が上昇し配当額が増加し得るが、これは反射的利益にすぎないため、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用できない。
問題の所在(論点)
後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができる「当事者」(民法145条)に該当するか。
規範
民法145条所定の「当事者」として消滅時効を援用し得る者は、権利の消滅により直接利益を受ける者に限定される。ここにいう直接利益を受ける者とは、権利が消滅しなければ義務を免れず、あるいは権利を失うなどの不利益を受ける地位にある者を指し、権利消滅に伴う順位上昇のような期待利益(反射的利益)を受けるにすぎない者は含まれない。
重要事実
不動産の競売手続等において、後順位抵当権者が、先順位抵当権の被担保債権について消滅時効を援用し、自らの配当順位を上昇させることを主張した。これに対し、後順位抵当権者が時効援用権を有する「当事者」に該当するかが争点となった。なお、比較対象として不動産の第三取得者は、抵当権消滅により所有権を全うできるため援用権が認められている。
事件番号: 昭和44(オ)491 / 裁判年月日: 昭和44年11月27日 / 結論: 棄却
債務者兼抵当権設定者が債務の不存在を理由として提起した抵当権設定登記抹消登記手続請求訴訟において、債権者兼抵当権者が請求棄却の判決を求め被担保債権の存在を主張したときは、右主張は、裁判上の請求に準ずるものとして、被担保債権につき消滅時効中断の効力を生ずる。
あてはめ
後順位抵当権者は、目的不動産の価額から先順位抵当権の担保債権額を控除した残額について優先弁済を受ける地位にすぎない。先順位抵当権が消滅すれば配当額が増加する可能性はあるが、これは抵当権の順位上昇に伴う「反射的利益」といえる。第三取得者が抵当権実行により所有権を失うという重大な不利益を免れる地位にあるのに対し、後順位抵当権者は、時効援用を認めずとも「従前の順位に応じて弁済を受ける」という本来の地位が害されるわけではない。したがって、後順位抵当権者は権利消滅により直接利益を受ける者とは認められない。
結論
後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができない。
実務上の射程
消滅時効の援用権者の範囲を画定するリーディングケースである。答案上は、まず145条の「当事者」を直接利益を受ける者に限定する規範を定立した上で、後順位抵当権者の利益を「反射的」と評価し、第三取得者(援用可)や一般債権者(原則不可)との比較の中で位置づけるのが効果的である。
事件番号: 昭和44(オ)1012 / 裁判年月日: 昭和45年2月24日 / 結論: 棄却
甲は、乙が代表者である丙組合と丁会社との紛争解決などのために、戊に合計九〇万円を融資し、その債務担保のため本件土地につき、戊から譲渡担保の設定を受け、一方、乙は、右のような事情から右担保権を取得した甲のために、その権利行使の障害となる根抵当権を自ら放棄したものであるなど判示事実関係のもとにおいては、乙は、その後戊との間…
事件番号: 昭和45(オ)719 / 裁判年月日: 昭和48年12月14日 / 結論: 破棄差戻
抵当不動産の譲渡を受けた第三者は、抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができる。
事件番号: 昭和38(オ)412 / 裁判年月日: 昭和39年8月13日 / 結論: 棄却
不動産所有権を取得したが本登記手続を経ない仮登記権利者は、右不動産上の抵当権者に対し被担保債務が弁済されたことを理由に当該抵当権設定登記の抹消登記手続を請求し得ない。