甲が丁の強迫により消費貸借契約の借主となり貸主乙に指示して貸付金を丙に給付させた後に右強迫を理由に契約を取り消したが、甲と丙との間には事前に何らの法律上又は事実上の関係はなく、甲が丁の言うままに乙に対して貸付金を丙に給付するように指示したなど判示の事実関係の下においては、乙から甲に対する不当利得返還請求について、甲が右給付によりその価額に相当する利益を受けたとみることはできない。
甲が丁の強迫により消費貸借契約の借主となり貸主乙に指示して貸付金を丙に給付させた後に右強迫を理由に契約を取り消した場合の乙から甲に対する不当利得返還請求につき甲が右給付により利益を受けなかったものとされた事例
民法96条1項,民法537条,民法587条,民法703条
判旨
借主の指示により貸主が第三者へ給付後、消費貸借契約が取り消された場合、借主は原則として給付額相当の利益を受けたと解されるが、第三者との間に法律上等の関係がなく強迫により指示させられた等の特段の事情があるときは、借主の利得は否定される。
問題の所在(論点)
消費貸借契約に基づき貸主から第三者へ金員が振り込まれた後、借主が契約を取り消した場合において、借主自身に不当利得返還義務の前提となる「利得」が認められるか。
規範
消費貸借契約の借主が、貸主に対し貸付金を第三者に給付するよう求め、貸主がこれに従い給付した後に契約が取り消された場合、不当利得返還請求(民法703条、704条)に関し、借主は「特段の事情」のない限り、当該給付によりその価額に相当する利益を受けたものとみるのが相当である。ただし、借主と第三者との間に事前に何らの法律上又は事実上の関係がなく、借主が第三者の強迫等により指示を余儀なくされたような場合は、利得の存在が否定される。
重要事実
上告人はDから強迫を受け、被上告人との間で3500万円の消費貸借契約を締結させられた。その際、Dの指示に従い、被上告人に対して貸付金をE社の口座に振り込むよう指示し、被上告人はこれに応じて残金を振り込んだ。その後、上告人はDの強迫を理由に本件契約を取り消した。上告人とE社の間には、事前に何らの法律上又は事実上の関係も存在しなかった。
あてはめ
原則として、借主の指示による第三者への給付は、借主の第三者に対する債務弁済等に充てられるため、借主に利得が認められる。また、貸主に借主・第三者間の関係の立証を強いるのは困難であり、借主が受領後に第三者へ交付した場合との均衡も考慮すべきである。しかし、本件では、上告人はDの強迫により指示を強いられたに過ぎず、受領者であるE社との間には何ら法律上・事実上の関係が存在しない。このような「特段の事情」がある場合、上告人は振込みによって実質的に何らの利益も受けていないと評価される。
結論
上告人に利得があったとはいえないため、被上告人の不当利得返還請求は認められない。
実務上の射程
契約取消しによる不当利得(現存利益)の議論において、指示給付が行われた場合の利得者の特定と利得の有無を判断する際の基準となる。実務上は、借主と第三者との間の対価関係の有無が「特段の事情」を左右する重要な考慮要素となる。
事件番号: 昭和41(オ)504 / 裁判年月日: 昭和45年3月26日 / 結論: 破棄差戻
甲の代理人乙がその権限をこえてみずから代表取締役となつている丙会社に対して約束手形を振り出し、丙会社がこれを丁に裏書譲渡した場合において、甲と丙との間に実質的な取引関係が認められないときは、実質上の取引関係は、丁において甲の代理人乙から直接手形の振出を受けて手形を取得した場合と異なるものではなく、丁につき民法一一〇条の…