一 破産宣告当時双務契約の当事者双方に未履行の債務が存在していても、契約を解除することによって相手方に著しく不公平な状況が生じるような場合には、破産管財人は破産法五九条一項に基づく解除権を行使することができない。 二 年会費の定めのある預託金会員制ゴルフクラブの会員が破産した場合において、破産管財人が会員契約を解除すると、破産財団は殊更解除に伴う財産的な出えんを要しないのに、ゴルフ場経営会社は、ゴルフ場施設を利用可能な状態に保持しこれを会員に利用させなければならない状況に変化がないまま、据置期間内の預託金を即時返還しなければならず、両者の均衡を失しており、同会社が右の不利益を破産法六〇条により回復することは困難であり、年会費支払義務が会員契約において付随的なものにすぎないなど判示の事情の下では、右解除により同会社に著しく不公平な状況が生じるということができ、破産管財人は、同法五九条一項により会員契約を解除することができない。
一 破産管財人が破産法五九条一項に基づく解除権を行使することができない場合 二 年会費の定めのある預託金会員制ゴルフクラブの会員が破産しても破産管財人が破産法五九条一項により会員契約を解除することができないとされた事例
破産法59条1項,民法第3編第2章契約
判旨
預託金会員制ゴルフクラブの会員が破産した場合、破産管財人による破産法59条1項に基づく解除権の行使は、相手方に著しく不公平な状況を生じさせる場合には制限される。本件のような会員契約において、年会費支払義務は付随的債務にすぎず、預託金の即時返還を強いることは均衡を失するため、同条による解除は認められない。
問題の所在(論点)
預託金会員制ゴルフクラブの会員が破産した場合において、ゴルフ場経営会社の「施設を利用させる義務」と会員の「年会費支払義務」が双方未履行であるとして、破産管財人は破産法59条1項(現53条1項)に基づき契約を解除できるか。
規範
破産法59条1項(旧法)が双務契約の解除を認めるのは、当事者間の公平と破産手続の迅速な終結を図るためである。したがって、双方に未履行債務が存在しても、解除により相手方に「著しく不公平な状況」が生じる場合には、同項に基づく解除権は行使できない。不公平の有無は、①給付内容の均衡、②相手方の不利益回復の可能性、③破産者の未履行債務が契約の本質的・中核的なものか否か、等を総合考慮して判断する。
重要事実
上告人が経営する預託金会員制ゴルフクラブの会員であるE社が破産した。本件会員契約では、会員は預託金を預け入れ、ゴルフ場施設を利用する権利を有するとともに、年会費支払義務等を負う。また、預託金は原則10年間の据置期間があり、退会時に返還される。E社の破産管財人である被上告人は、契約が双務契約であり双方未履行であるとして、破産法59条1項に基づき契約を解除し、預託金2300万円の即時返還を求めた。
あてはめ
ゴルフ場側は他の会員との関係で施設維持を継続せねばならず、解除により多額の預託金の即時返還(予定外の資金調達)という甚大な負担を負う。他方、破産財団側は利用権を失うだけで出捐はなく、両者の均衡を欠く。また、年会費支払義務は預託金額に比して極めて少額であり、契約の本質的・中核的部分ではなく「付随的債務」にすぎない。市場価値が低下した会員権の解除により預託金全額の回収を認めることは不当であり、退会手続等による年会費負担回避も可能である。したがって、解除を認めることは相手方に著しく不公平な状況を生じさせる。
結論
本件解除権の行使は認められず、預託金返還請求は棄却される。破産管財人は破産法59条1項に基づき本件会員契約を解除することはできない。
実務上の射程
破産法53条1項の解除権が制限される「著しい不公平」の判断枠組みを示した重要判例である。預託金会員制ゴルフ会員権の換価において、管財人が「解除による額面回収」という安易な方法を採ることを否定した。答案上は、双務契約性の肯定(年会費義務がある場合)と、その後の解除権行使の制限(信義則的修正)の二段階で論じる際に活用する。
事件番号: 平成10(オ)1116 / 裁判年月日: 平成12年3月9日 / 結論: 破棄自判
預託金会員制ゴルフクラブの会員がゴルフ場施設を利用した場合に発生すべき所定の施設利用料金の支払義務は、破産法五九条一項の未履行債務に当たらない。