一 労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるものではない。 二 労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時間に該当する。 三 就業規則により、始業に間に合うよう更衣等を完了して作業場に到着し、所定の始業時刻に作業場において実作業を開始し、所定の終業時刻に実作業を終了し、終業後に更衣等を行うものと定め、また、始終業の勤怠は更衣を済ませ始業時に準備体操場にいるか否か、終業時に作業場にいるか否かを基準として判断する旨定めていた造船所において、労働者が、始業時刻前に更衣所等において作業服及び保護具等を装着して準備体操場まで移動し、副資材等の受出しをし、散水を行い、終業時刻後に作業場等から更衣所等まで移動して作業服及び保護具等の脱離等を行った場合、右労働者が、使用者から、実作業に当たり、作業服及び保護具等の装着を義務付けられ、右装着を事業所内の所定の更衣所等において行うものとされ、副資材等の受出し及び散水を始業時刻前に行うことを義務付けられていたなど判示の事実関係の下においては、右装着及び準備体操場までの移動、右副資材等の受出し及び散水並びに右更衣所等までの移動及び脱離等は、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、労働者が右各行為に要した社会通念上必要と認められる時間は、労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時間に該当する。
一 労働基準法上の労働時間の意義 二 労働者が就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ又はこれを余儀なくされた場合における当該行為に要した時間と労働基準法上の労働時間 三 労働者が始業時刻前及び終業時刻後の作業服及び保護具等の着脱等並びに始業時刻前の副資材等の受出し及び散水に要した時間が労働基準法上の労働時間に該当するとされた事例
労働基準法(昭和62年法律第99号による改正前のもの)32条
判旨
労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、労働者が就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為に要した時間は、社会通念上必要と認められる限り、同法上の労働時間に該当する。
問題の所在(論点)
労働基準法(昭和62年改正前)32条の「労働時間」の意義、および就業規則上の始業時刻前・終業時刻後に行われる準備・後片付け行為(更衣、資材受出し、散水、移動等)が同法上の労働時間に該当するか。
規範
労働基準法上の「労働時間」とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、その該当性は労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるか否かにより客観的に定まる。労働契約や就業規則等の定めに左右されない。具体的には、業務の準備行為等を事業所内で行うことが義務付けられ、又は余儀なくされた場合、特段の事情のない限り使用者の指揮命令下に置かれたものと評価でき、社会通念上必要な範囲で労働時間に該当する。
重要事実
造船業を営む上告人の従業員である被上告人らは、就業規則等により、始業時刻までに更衣等を完了して作業場に到着し、実作業を開始することを義務付けられていた。具体的には、(1)更衣所等における作業服・保護具等の装着および準備体操場への移動、(2)始業前の副資材等の受出しおよび散水作業、(3)終業後の作業場から更衣所等への移動および保護具等の脱離が、上告人から義務付けられていた。これらを怠ると懲戒処分や賃金減額の対象となる場合があった。
あてはめ
被上告人らが実作業に際して作業服・保護具等の装着を義務付けられ、かつその場所を事業所内の更衣所等に指定されていた事実に照らせば、装着行為および更衣所から体操場までの移動は、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できる。副資材等の受出しや散水についても同様に義務付けられた行為である。また、終業後の脱離についても、それが完了するまでは依然として指揮命令下にあるといえる。これらの行為に要した時間は、社会通念上必要な範囲内である限り、客観的に労働時間に該当すると解される。
結論
上告人の指揮命令下にあると評価される準備・後片付け行為(更衣、資材受出し、散水、移動等)に要した時間は、社会通念上必要な範囲で労働基準法上の労働時間に該当する。
実務上の射程
本判決は、三菱重工長崎造船所事件として知られ、労働時間の「客観説」を確立した。実務上、不払い残業代請求において、着替えや移動時間が労働時間に含まれるか否かを判断する際の最重要規範として機能する。
事件番号: 平成7(オ)2029 / 裁判年月日: 平成12年3月9日
【結論(判旨の要点)】労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、その該当性は客観的に定まるものである。業務の準備行為等が事業所内で行うことを義務付けられ、または余儀なくされた場合、それらに要した時間は原則として指揮命令下にあるといえ、労働基準法上の労働時間に該当する。 第1 事案の…
事件番号: 平成7(オ)1266等 / 裁判年月日: 平成12年3月9日
【結論(判旨の要点)】労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、契約等の定めにかかわらず客観的に定まる。実作業に不可欠な準備行為が事業所内で行うよう義務付けられている場合、それは使用者の指揮命令下に置かれたものとして労働時間に該当する。 第1 事案の概要:造船所で働く労働者らは、就…
事件番号: 平成7(オ)2030 / 裁判年月日: 平成12年3月9日
【結論(判旨の要点)】労働基準法上の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、契約上の定めにかかわらず客観的に定まるものである。義務付けられた作業服等の着脱時間は指揮命令下にあるものとして労働時間に該当するが、入退場門からの移動や任意の洗身時間は該当しない。 第1 事案の概要:造船所で働く労働者…