一 財務会計上の行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とする住民監査請求において、右請求権が右財務会計上の行為のされた時点ではいまだ発生しておらず、又はこれを行使することができない場合には、右実体法上の請求権が発生し、これを行使することができることになった日を基準として地方自治法二四二条二項の規定を適用すべきである。 二 市が、国鉄から転売禁止特約付きで買い受けた土地を特約に違反して転売したとして、国鉄を承継した国鉄清算事業団から、右土地の売買契約を解除された上、解除により発生すると定められた違約金の支払を請求され、その請求訴訟における裁判上の和解に基づき違約金の一部に相当するとみられる和解金を支払ったため、右和解金相当額の損害を被ったのに、右の違法な転売行為をした市長個人に対して取得した損害賠償請求権の行使を怠っていると主張してされた住民監査請求について、右訴訟において市が右特約の有効性を争い違約金債務の負担を否定し続けていたなど判示の事実関係の下においては、右和解の日を基準として地方自治法二四二条二項の規定を適用すべきである。
一 財務会計上の行為が違法、無効であることに基づく実体法上の請求権が右行為の時点では発生しておらず又はこれを行使することができない場合における右請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とする住民監査請求と地方自治法二四二条二項の適用 二 市長の違法な土地転売行為により市が被った和解金相当額の損害の賠償請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とする住民監査請求につき和解の日を基準として地方自治法二四二条二項の規定を適用すべきであるとされた事例
地方自治法242条1項,地方自治法242条2項,地方自治法242条の2第1項
判旨
財務会計上の行為が違法であることを理由とする損害賠償請求権の不行使(怠る事実)に係る住民監査請求において、当該請求権が財務会計上の行為の時点では発生していないか、又は行使できない場合には、その監査請求期間(地方自治法242条2項)は当該請求権が発生し行使可能となった日から進行する。
問題の所在(論点)
「財産の管理を怠る事実」を対象とする住民監査請求において、その前提となる財務会計上の行為(転売)から1年以上経過した後に、その行為から生じた損害(和解金の支払義務)が確定した場合、地方自治法242条2項の監査請求期間の起算点はいつになるか。
規範
地方自治法242条2項の住民監査請求期間の制限について、財務会計上の行為が違法・無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって「財産の管理を怠る事実」とする場合、当該請求権が財務会計上の行為のなされた時点においてはいまだ発生しておらず、又はこれを行使することができないときには、右実体法上の請求権が発生し、これを行使することができることになった日を基準として、同項の期間を適用すべきである。
事件番号: 平成17(行ヒ)341 / 裁判年月日: 平成19年4月24日 / 結論: 棄却
1 財産の管理を怠る事実に係る実体法上の請求権が除斥期間の経過により消滅するなどして怠る事実が終わった場合には,当該怠る事実の終わった日から1年を経過したときはこれを対象とする住民監査請求をすることができない。 2 財産の管理を怠る事実(第1の怠る事実)に係る実体法上の請求権が除斥期間の経過により消滅するなどして怠る事…
重要事実
茅ヶ崎市長(被上告人)は、国鉄との土地売買契約における転売禁止特約に反し、昭和61年8月に本件土地を第三者に転売した。国鉄を承継した清算事業団は、昭和62年12月に違約金支払を求めて提訴。市は争ったが、平成元年8月15日に和解金1490万円を支払う裁判上の和解が成立し、同年11月に支払った。住民(上告人)は、平成2年3月23日に、市長に対し和解金相当額の損害賠償を求めるよう監査請求を行い、住民訴訟を提起した。原審は、監査請求期間の起算点を「転売の日(財務会計上の行為時)」とし、1年の期間を徒過したとして訴えを却下した。
あてはめ
本件土地の転売行為があった時点では、それだけで当然に違約金請求権が発生するわけではなく、市に損害が発生したとはいえない。また、市は清算事業団との訴訟において、特約の有効性自体を否定して争っており、和解成立までは市長に対し損害賠償請求を行使できない立場にあった。したがって、市が市長に対して損害賠償請求権を行使できるようになったのは、裁判上の和解により市の債務負担が確定した平成元年8月15日と解される。住民による本件監査請求は、この和解日から1年以内になされている。
結論
本件監査請求は、地方自治法242条2項の期間を遵守した適法なものである。したがって、これに基づき提起された住民訴訟を不適法とした原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
通常、怠る事実の起算点は「原因となった行為時」とされる(最判昭57・2・20等)が、本判決はその例外として、損害が後発的に確定する場合の起算点を示した。答案上は、怠る事実の対象となる請求権の発生時期・行使可能性を検討し、原因行為時を起算点とすることが著しく不合理な場合に本枠組みを用いる。
事件番号: 平成9(行ツ)62 / 裁判年月日: 平成14年10月3日 / 結論: その他
1 財務会計職員が行った財務会計上の行為の準備行為が違法であることに基づいて発生する当該職員に対する損害賠償請求権の行使を怠る事実を対象としてされた住民監査請求については,上記違法が財務会計上の行為の違法を構成する関係にある場合には,財務会計上の行為のあった日又は終わった日を基準として地方自治法242条2項の規定が適用…
事件番号: 平成12(行ヒ)76 / 裁判年月日: 平成14年7月18日 / 結論: 棄却
日本下水道事業団が市から建設の委託を受けた施設の設備工事を業者に発注した場合において,業者らが談合した結果,同事業団と業者との間で不当に高額の代金で工事請負契約が締結され,委託者として最終的にその工事請負代金を負担する市に損害を与えたことが,上記業者らの市に対する不法行為に当たり,市は上記業者らに対し損害賠償請求権を有…