詐害行為の受益者は、詐害行為取消権を行使する債権者の債権の消滅時効を援用することができる。
詐害行為の受益者と取消債権者の債権の消滅時効の援用
民法145条,民法424条
判旨
詐害行為の受益者は、債権者が詐害行為取消権を行使してきた場合、その行使の前提となる被保全債権について、消滅時効を援用することができる。
問題の所在(論点)
詐害行為の受益者は、詐害行為取消権を行使する債権者の債務者に対する債権(被保全債権)について、民法145条の「当事者」として消滅時効を援用することができるか。
規範
民法145条にいう時効を援用し得る「当事者」とは、権利の消滅により直接利益を受ける者に限定される。詐害行為の受益者は、取消権の行使により直接の相手方として既得利益を失う関係にある一方、被保全債権が消滅すれば当該利益喪失を免れる地位にある。したがって、受益者は被保全債権の消滅により直接利益を受ける者に当たり、当該債権の消滅時効を援用できる。
重要事実
債権者Aは、債務者Bに対して連帯保証債務履行請求権および求償債権を有していた。Bは、Aを害することを知りながら、所有不動産を受益者Cに贈与した。AがCに対し、詐害行為取消権に基づき贈与契約の取消しおよび登記抹消を求めて提訴したところ、Cは、AのBに対する各債権が時効により消滅していると主張し、消滅時効を援用した。
事件番号: 昭和63(オ)357 / 裁判年月日: 平成2年6月5日 / 結論: 破棄自判
売買予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記の経由された不動産につき抵当権の設定を受け、その登記を経由した者は、予約完結権の消滅時効を援用することができる。
あてはめ
本件において、受益者Cは詐害行為取消権行使の直接の相手方であり、取消しが認められれば、有効に受贈した不動産の所有権という既得利益を失う立場にある。これに対し、債権者AのBに対する求償債権等が消滅すれば、取消権行使の要件を欠くことになり、Cは不動産の所有権を保持できる。このように、CはAの債権消滅によって「直接利益を受ける者」に該当するため、民法145条の当事者として消滅時効を援用し得ると解される。
結論
詐害行為の受益者は、被保全債権の消滅時効を援用できる。したがって、受益者による時効援用を認めなかった原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
詐害行為取消権の事案において、受益者側からの典型的な防御手段として位置づけられる。答案上、受益者の適格を論じる際には、単なる反射的利益ではなく、取消権行使による直接的な不利益(既得権の喪失)を回避する地位にあることを強調して、民法145条の「直接利益を受ける者」に含める論理を展開する。
事件番号: 昭和49(オ)181 / 裁判年月日: 昭和49年12月12日 / 結論: 棄却
民法四二四条所定の詐害行為の目的たる権利の転得者から悪意で更に転得した者は、たとえその前者が善意であつても、同条に基づく債権者の追及を免れることができない。
事件番号: 昭和46(オ)912 / 裁判年月日: 昭和47年6月15日 / 結論: 棄却
破産法七二条一号による否認権行使の場合において、受益者が同号但書により否認を免れうるためには、その行為の当時破産債権者を害することを知らなかつたことが認められれば足り、その知らないことにつき過失がなかつたかどうかは問わないものと解すべきである。