譲渡担保権設定者は、譲渡担保権者が清算金の支払又は提供をせず、清算金がない旨の通知もしない間に譲渡担保の目的物の受戻権を放棄しても、譲渡担保権者に対して清算金の支払を請求することはできない。
譲渡担保権設定者の受戻権放棄による清算金支払請求の可否
民法369条(譲渡担保)
判旨
譲渡担保権設定者は、譲渡担保権者が清算金の支払や通知を行わない間に受戻権を放棄したとしても、それにより清算金支払請求権を取得することはない。
問題の所在(論点)
譲渡担保において、債権者(譲渡担保権者)が担保権の実行に着手(清算金の支払・提供または清算金がない旨の通知)をしていない段階で、債務者(設定者)側が一方的に受戻権を放棄することにより、清算金支払請求権を発生させることができるか。
規範
1. 譲渡担保権設定者の清算金支払請求権は、譲渡担保権者が実行(自己帰属または換価処分)を選択した際に、目的物価額から債権額を控除した残額の支払を求める権利である。 2. これに対し受戻権は、実行の完結前に弁済等により所有権を回復する権利であり、両者は発生原因を異にする。したがって、受戻権の放棄により直ちに清算金支払請求権が発生するわけではない。 3. また、設定者の放棄により清算金請求を認めると、譲渡担保権者が有する「実行の時期を決定する自由」を不当に制約することになるため、認められない。
重要事実
1. 債務者Dは、債権者(上告人)に対し借入金債務を負い、その担保として本件土地に帰属清算型の譲渡担保を設定し、所有権移転登記を経由した。 2. Dが履行遅滞に陥った後、Dが死亡。相続財産管理人(被上告人)は、上告人が清算金の支払・提供や通知を一切行っていない段階で、上告人に対し受戻権を放棄する旨を通知した。 3. 被上告人は、受戻権の放棄により清算金支払請求権が発生したと主張して、土地評価額から債務額を控除した清算金の支払を求めて提訴した。
あてはめ
1. 本件において、上告人(債権者)は清算金の支払や通知を行っておらず、いまだ自ら譲渡担保権の実行を完結させる意思表示をしていない。 2. 被上告人が行った「受戻権の放棄」は、単に受戻権を失わせる効果を持つにすぎず、権利の性質や発生原因が異なる清算金支払請求権を創設させる根拠とはならない。 3. もしこれを認めれば、債務者側が時価の高い時期を狙って放棄することで、債権者が有する実行時期の決定権を奪うことになり、担保権の趣旨に反する。したがって、被上告人の通知によって清算金支払請求権が生じたとはいえない。
結論
譲渡担保権設定者は、債権者が実行に着手していない段階で受戻権を放棄しても清算金を請求できない。したがって、被上告人の請求は棄却される。
実務上の射程
譲渡担保の実行時期の主導権は債権者にあることを明示した判例である。答案作成上は、清算金支払請求権の発生時期が「債権者による実行(通知・提供)」にあることを論証する際の根拠として活用する。債務者側からの換価強制を否定する文脈で極めて重要である。
事件番号: 昭和49(オ)762 / 裁判年月日: 昭和49年12月17日 / 結論: 棄却
譲渡担保の被担保債権につき、その弁済期の頃、債権者、債務者、目的物件所有者の間において、右物件を処分し、その売却代金によつてこれを弁済する旨の合意が成立した場合においては、右処分未了の間、債務者は債務を弁済して譲渡担保権を消滅させることができる。
事件番号: 昭和60(オ)568 / 裁判年月日: 昭和62年2月12日 / 結論: 破棄差戻
債務者所有の不動産に設定された譲渡担保が帰属清算型である場合、債権者の支払うべき清算金の有無及びその額は、債権者が債務者に対し清算金の支払若しくはその提供をした時若しくは目的不動産の適正評価額が債務額(評価に要した相当費用等の額を含む。)を上回らない旨の通知をした時、又は債権者において目的不動産を第三者に売却等をした時…
事件番号: 昭和52(オ)1057 / 裁判年月日: 昭和54年2月22日 / 結論: 棄却
仮登記担保関係において、債権者が履行遅滞を理由に代物弁済予約の完結の意思表示をし、目的不動産につき予め交付を受けていた登記に必要な書類を利用して仮登記に基づく所有権移転登記を経由した場合でも、清算義務を負うときは、債務者は、清算金の提供を受けるまでは債務を弁済して目的不動産を取り戻すことができる。