一 一時的に我が国に滞在し将来出国が予定される外国人の事故による逸失利益を算定するに当たっては、予測される我が国での就労可能期間内は我が国での収入等を基礎とし、その後は想定される出国先での収入等を基礎とするのが合理的であり、我が国における就労可能期間は、来日目的、事故の時点における本人の意思、在留資格の有無、在留資格の内容、在留期間、在留期間更新の実績及び蓋然性、就労資格の有無、就労の態様等の事実的に及び規範的な諸要素を考慮して、これを認定するのが相当である。 二 短期滞在の在留資格で我が国に入国し、在留期間経過後も不法に残留して就労していた外国人が、労災事故により後遺障害を残す負傷をし、事故後も国内に残留し事故の二〇日後から約五箇月後までの間は製本会社で就労するなどして収入を得ているが、最終的には退去強制の対象とならざるを得ず、特別に在留が合法化され退去強制を免れ得るなどの事情は認められないという判示の事実関係の下においては、右外国人の逸失利益の算定に当たり、我が国における就労可能期間を同人が事故後に勤めた右製本会社を退社した日の翌日から三年間を超えるものとは認められないとした原審の認定判断は、不合理とはいえない。 三 損害賠償額を過少に算定した違法があるとしてされた上告の上告理由書提出期間経過後に、これを過大に算定した違法があるとしてされた附帯上告は、不適法である。
一 一時的に我が国に滞在し将来出国が予定される外国人の逸失利益の算定方法 二 不法残留外国人の労災事故による逸失利益の算定に当たり我が国における就労可能期間を事故の約五箇月後まで勤めた会社を退社した日の翌日から三年間を超えて認めなかった原審の認定判断が不合理ではないとされた事例 三 損害賠償額を過少に算定した違法があるとしてされた上告の上告理由書提出期間経過後にこれを過大に算定した違法があるとしてされた附帯上告の適否
民法416条,民法709条,民訴法372条,民訴法396条,民訴規則58条,民訴規則57条
判旨
不法残留外国人の逸失利益は、原則として、日本での就労可能期間内は日本での収入を、その後は母国等での収入を基礎に算定する。就労可能期間の認定にあたっては、在留資格の有無や更新の蓋然性、就労の態様等の諸要素を総合考慮すべきである。
問題の所在(論点)
不法残留外国人が日本での就労中に受傷した場合、民法709条に基づく損害賠償請求における「逸失利益」を、どの国の収入水準を基礎として、いかなる期間について算定すべきか。
規範
逸失利益は「あるべき状態への回復」を目的とするため、被害者個々人の具体的事情を考慮して算定すべきである。将来出国が予定される外国人の場合、証拠に基づき相当程度の蓋然性をもって予測される「日本での就労可能期間」については日本での収入を、その後の期間については「想定される出国先(母国等)」での収入を基礎とする。就労可能期間は、①来日目的、②本人の意思、③在留資格の有無・内容・期間、④更新の実績・蓋然性、⑤就労資格の有無、⑥就労態様等の諸要素を総合考慮して認定する。ただし、不法残留者は退去強制の対象であり滞在が不安定なため、特段の事情がない限り、日本での就労可能期間を長期に認めることはできない。
事件番号: 平成5(オ)2132等 / 裁判年月日: 平成9年1月28日
【結論(判旨の要点)】不法残留外国人の逸失利益算定において、将来の収入状況は証拠に基づき相当程度の蓋然性をもって推定すべきであり、我が国での就労可能期間は在留資格等の諸要素を考慮して認定すべきである。また、労災保険の特別支給金は損害を填補する性質を有しないため、損害賠償額から控除することはできない。 第1 事案の概要:…
重要事実
パキスタン国籍の被害者は、観光目的の短期滞在資格で入国後、在留期間を経過して不法残留したまま製本会社で稼働していた。就労中に労災事故に遭い、後遺障害を負った。被害者は事故後も国内に留まり別の会社でアルバイト等を行っていたが、在留が合法化される具体的蓋然性は認められない状況にあった。
あてはめ
被害者は観光目的で入国し、在留期間経過後も不法に残留して就労していた。入管法上、最終的には退去強制の対象となる者であり、特別に在留が合法化される事情も認められない。本件では、不法残留という不安定な地位に鑑み、事故後の就労実績等も考慮した上で、事故後の一定期間(本件では3年間)に限り日本での実収入を基礎とし、それ以降は母国パキスタンでの収入を基礎として算定した原審の判断は合理的である。
結論
不法残留外国人の逸失利益は、特段の事情がない限り日本での長期就労を前提とせず、蓋然性の認められる限度の期間は日本での収入を、その後は母国の収入を基礎として算定される。
実務上の射程
外国人の逸失利益算定に関するリーディングケースである。答案では、まず「被害者個別の具体的事情」を考慮する原則を示し、不法残留者の場合は上記6つの考慮要素(特に在留資格の有無と更新の蓋然性)を挙げて、日本での就労可能期間を限定的に画定する論理を展開する際に用いる。また、労災保険の「特別支給金」が損益相殺の対象外である点も本判決の重要な判旨である。
事件番号: 昭和37(オ)611 / 裁判年月日: 昭和43年8月2日 / 結論: その他
一、企業主が生命または身体を侵害されたため企業に従事することができなくなつたことによつて生ずる財産上の損害額は、特段の事情のないかぎり、企業収益中に占める企業主の労務その他企業に対する個人的寄与に基づく収益部分の割合によつて算定すべきである。 二、附帯上告が上告理由と同一の理由に基づく場合において上告審で口頭弁論が開か…
事件番号: 昭和40(オ)330 / 裁判年月日: 昭和43年10月3日 / 結論: その他
一、(省略) 二、被害者の遺族が支出した葬式費用は、社会通念上特に不相当なものでないかぎり、加害者側の賠償すべき損害となる。 三、被害者の遺族が受領した香典は、損害額の算定にあたり控除すべきものではない。