判旨
不法残留外国人の逸失利益算定において、将来の収入状況は証拠に基づき相当程度の蓋然性をもって推定すべきであり、我が国での就労可能期間は在留資格等の諸要素を考慮して認定すべきである。また、労災保険の特別支給金は損害を填補する性質を有しないため、損害賠償額から控除することはできない。
問題の所在(論点)
1. 不法残留外国人の逸失利益を算定する際、我が国での就労可能期間をどのように認定すべきか。 2. 労災保険法に基づく「特別支給金」を、不法行為に基づく損害賠償額から控除(損益相殺的な調整)することができるか。
規範
1. 逸失利益は、被害者個々人の具体的事情を考慮し、相当程度の蓋然性をもって推定される将来の収入状況を基礎に算定する。外国人の場合、我が国での就労可能期間内は国内収入を、その後は出国予定先の収入を基礎とする。就労可能期間は、来日目的、本人の意思、在留資格の有無・内容・期間、更新の蓋然性、就労態様等の諸要素を考慮して認定する。不法残留者の場合、在留特別許可等の具体的蓋然性がない限り、長期の就労可能期間を認めることはできない。 2. 労災保険法に基づく特別支給金は、労働福祉事業の一環として福祉増進を図るものであり、損害を填補する性質を有しない。したがって、損害賠償義務の履行との調整規定もなく、損害額から控除することはできない。
重要事実
パキスタン国籍の原告は、短期滞在の在留資格で入国後、被告会社で就労し、在留期間経過後も不法残留して就労を継続していた。原告は製本作業中に事故に遭い、後遺障害を負った。原告は被告らに対し、逸失利益等を含む損害賠償を請求した。原審は、事故後3年間は日本での収入を、その後は母国での収入を基礎に逸失利益を算定し、また受領済みの労災特別支給金を損害額から控除した。
あてはめ
1. 原告は観光目的で入国し、在留期間経過後も不法残留しており、退去強制の対象となる。在留特別許可等により滞在が合法化される具体的蓋然性も認められない。したがって、不安定な就労状況を考慮し、3年間に限り国内収入を基礎とし、その後は母国収入を基礎とした原審の判断は合理的である。 2. 労災保険の特別支給金は、本来の保険給付ではなく療養生活の援護等のための福祉的給付である。損害填補を目的とするものではなく、法律上の調整規定も存在しない。したがって、原審が特別支給金を損害額から差し引いた点には、法令の解釈適用の誤りがある。
結論
事件番号: 平成5(オ)2132 / 裁判年月日: 平成9年1月28日 / 結論: その他
一 一時的に我が国に滞在し将来出国が予定される外国人の事故による逸失利益を算定するに当たっては、予測される我が国での就労可能期間内は我が国での収入等を基礎とし、その後は想定される出国先での収入等を基礎とするのが合理的であり、我が国における就労可能期間は、来日目的、事故の時点における本人の意思、在留資格の有無、在留資格の…
1. 不法残留外国人の日本国内での就労可能期間を限定的に解した原審の判断は維持される。 2. 損害額から控除された特別支給金分については、控除を否定し、被告らの賠償額を増額する変更判決を下す。
実務上の射程
外国人の逸失利益算定に関するリーディングケース。答案では「特段の事情がない限り、不法残留者の国内就労期間は長期に認められない」という規範として用いる。また、労災給付と損害賠償の調整において、控除の対象となる「保険給付」と、対象外の「特別支給金」を区別する際の根拠として重要である。
事件番号: 平成21(受)1932 / 裁判年月日: 平成22年10月15日 / 結論: 棄却
1 被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合において,労働者災害補償保険法に基づく保険給付を受けたときは,この社会保険給付については,これによるてん補の対象となる特定の損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべきである。 2 被害者が,不法行為によ…