甲車を被保険自動車として締結された保険契約に適用される保険約款中に、被保険自動車に搭乗中の者がその運行に起因する事故により傷害を受けて死亡したときはその相続人に定額の保険金を支払う旨の定めがあり、甲車に搭乗中交通事故により死亡した者の相続人が右保険金を受領した場合、右保険金は、右相続人の損害額から控除すべきではない。
被保険自動車に搭乗中交通事故により死亡した者の相続人が受領したいわゆる搭乗者傷害保険の死亡保険金を右相続人の損害額から控除することの要否
民法709条,商法第3編第10章保険
判旨
自動車保険の搭乗者傷害条項に基づく保険金は、被保険者の保護を目的とした定額給付の性質を有し、損害をてん補する性質のものではないため、不法行為に基づく損害賠償額から控除することはできない。
問題の所在(論点)
不法行為の被害者が受領した搭乗者傷害保険金は、損害賠償額の算定において損益相殺(損害をてん補する性質の利得として控除)の対象となるか。
規範
傷害保険(搭乗者傷害保険)に基づき支払われる給付金は、被害者の損害をてん補する性質を有するものではなく、一定の事故が発生した場合に定額を支払うことを約するものである。したがって、被害者側の利益を保護する趣旨から、特段の事情のない限り、当該保険金を損害賠償額から差し引く(損益相殺ないし損益相殺的な控除を行う)ことは許されない。
重要事実
被害者Dは、被上告人B1が運転する自動車に同乗中、被上告人B2の運転する自動車との衝突事故により死亡した。Dの相続人である上告人らは、B1が締結していた自動車保険の「搭乗者傷害条項」に基づき、死亡保険金1000万円を受領した。その後、上告人らは被上告人らに対し、自動車損害賠償保障法3条に基づき損害賠償を請求したところ、原審は当該保険金を損害額から控除すべきと判断したため、上告人らが上告した。
あてはめ
本件条項は、被保険自動車に搭乗中の者が事故で死亡した際に、被保険者の相続人に対し定額の保険金を給付するものである。また、約款上、保険会社は支払った保険金について損害賠償請求権を代位取得しないと定められている。これは、家族や知人等が搭乗する機会が多いことに鑑み、被保険者を厚く保護する趣旨と解される。したがって、当該保険金は損害をてん補する性質を有するものではないため、損害額からの控除は認められない。
結論
搭乗者傷害保険金は、被害者の損害額から控除することはできない。被上告人らは、受領済みの保険金額を差し引くことなく、算定された損害全額を支払う義務を負う。
実務上の射程
損益相殺の可否が問われる事案において、当該給付が「損害のてん補」を目的とするか「定額の給付(見舞金的性質)」を目的とするかを区別する際の基準となる。人身傷害補償保険金(実損てん補型)と搭乗者傷害保険金(定額給付型)を書き分ける際に不可欠な判例である。
事件番号: 昭和58(オ)128 / 裁判年月日: 昭和62年7月10日 / 結論: 破棄差戻
労働者災害補償保険法による休業補償給付若しくは傷病補償年金又は厚生年金保険法(昭和六〇年法律第三四号による改正前のもの)による障害年金は、被害者の受けた財産的損害のうちの積極損害又は精神的損害から控除すべきでない。