普通地方公共団体の議会が、地方自治法二〇三条五項に基づき、その議員等に対する費用弁償に関する条例を制定するに当たっては、あらかじめその支給事由を定め、それに該当するときには標準的な実費である一定の額を支給することとすることも許され、この場合、いかなる事由を支給事由として定めるか、また、一定の額を幾らとするかは、右議会の裁量判断にゆだねられている。
議員等に対する費用弁償に関する条例の制定と普通地方公共団体の議会の裁量
地方自治法203条3項,地方自治法203条5項,地方自治法242条の2第1項4号
判旨
地方自治法203条3項に基づく費用弁償の支給事由および額の決定は、当該普通地方公共団体の議会の裁量判断に委ねられる。実際の費消額にかかわらず、標準的な実費として一定額を支給する条例の定めは、裁量権の範囲を逸脱または濫用しない限り適法である。
問題の所在(論点)
地方議会議員の議会出席に対する費用弁償を定めた条例が、実費を超える定額を支給する内容である場合に、地方自治法203条3項に違反し、当該条例に基づく支出が違法となるか。また、費用弁償の額の決定に関する議会の裁量の有無が問題となる。
規範
地方自治法203条3項の費用弁償について、同条5項がその額および支給方法を条例で定めるべき旨を規定していることから、いかなる事由を支給事由とし、標準的な実費としていくらの額を支給するかは、当該普通地方公共団体の議会の裁量判断に委ねられている。したがって、あらかじめ支給事由を定め、実費の多寡にかかわらず定額を支給する形式も許容され、その内容が裁量権の範囲を逸脱・濫用しない限り、法に違反しない。
重要事実
市川市長(被上告人)は、条例に基づき議会に出席した議員らに対し、費用弁償として日額3000円を支出した。住民(上告人)らは、このうち2500円分は昼食代や諸雑費に相当し、所得税法上の非課税給付に当たらない実質的な「報酬」であるため、同法203条3項に違反する違法な公金支出であると主張して、住民訴訟に基づき市長個人への損害賠償を求めた。
事件番号: 平成21(行ヒ)211 / 裁判年月日: 平成22年3月30日 / 結論: 破棄自判
政令指定都市である市の議会における定例会等の会議に出席した議員に対し費用弁償として日額1万円を支給する旨の当該市の条例の定めは,上記会議がいずれも地方自治法に定められたもので議員の重要な活動の場であり,そこへの出席に伴い常勤の公務員にはない諸雑費や交通費の支出を要する場合があり得るところであって,上記議会が,上記条例が…
あてはめ
本件条例5条の3は、本会議や委員会への出席に対し日額3000円を支給すると定めている。上告人はこの一部が昼食代等の諸雑費であり費用弁償の性質を欠くと主張するが、費用弁償の内容決定は議会の広範な裁量に属する事由である。本件における支給事由(議会出席)および額(3000円)が、標準的な実費の範囲を明らかに超えるなど、市川市議会に与えられた裁量権の範囲を逸脱・濫用したと認めるべき特段の事情は存在しない。したがって、本件条例は法203条3項に違反しない。
結論
本件条例は地方自治法203条3項に違反せず適法である。したがって、これに基づく市長の支出行為等に違法はなく、損害賠償請求は認められない。
実務上の射程
地方公共団体の議員の処遇(費用弁償、政務活動費等)に関する条例の適法性が争われる事案において、議会の裁量を広く認める基準として機能する。答案上は、条例の規定が法の上位規範に抵触するかを論じる際、定額支給の合理性を肯定しつつ、裁量権逸脱・濫用の有無という枠組みで検討する際に引用すべき判例である。
事件番号: 昭和58(行ツ)132 / 裁判年月日: 昭和61年2月27日 / 結論: 破棄差戻
一 普通地方公共団体の住民が地方自治法二四二条の二第一項四号に基づく代位請求訴訟により同法二四三条の二第一項所定の職員に対し同項の規定による損害賠償を求める場合でも、同条三項所定の賠償命令があることを要しない。 二 普通地方公共団体に対するその長の損害賠償責任については、地方自治法二四三条の二の適用はない。
事件番号: 平成22(行ツ)300 / 裁判年月日: 平成23年12月15日 / 結論: その他
滋賀県選挙管理委員会の委員長以外の委員について月額報酬を定める滋賀県特別職の給与等に関する条例(昭和28年滋賀県条例第10号。平成23年滋賀県条例第17号による改正前のもの)4条,別表2の規定は,地方自治法203条の2第2項が滋賀県議会に与えた裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したものとして違法,無効であるとはいえない。…