労働者が請求していた年次有給休暇の時季指定日に、たまたまその所属する事業場において予定を繰り上げてストライキが実施されることになり、当該労働者が、右ストライキに参加しその事業場の業務の正常な運営を阻害する目的をもって、右請求を維持して職場を離脱した場合には、右請求に係る時季指定日に年次有給休暇は成立しない。
労働者が自己の所属する事業場における争議行為に参加する目的をもって職場を離脱した場合と年次有給休暇の成否
労働基準法(昭和62年法律第99号による改正前のもの)39条
判旨
年次有給休暇制度は正常な勤務体制の枠内で休暇を認める趣旨であるから、所属事業場の業務運営を阻害する目的で争議行為に参加するために行われた年休請求は、権利の行使といえず年休は成立しない。
問題の所在(論点)
労働者が所属事業場の業務を阻害する目的で争議行為(ストライキ)に参加するために年次有給休暇の時季指定権を行使した場合、同法39条に基づく年次休暇が成立するか。
規範
労働基準法39条の年次有給休暇制度は、同法の適用される事業場において業務を運営するための正常な勤務体制が存在することを前提として、その枠内で労働者に休暇を認めるという趣旨である。したがって、所属する事業場の正常な業務の運営を阻害する目的をもって行われる職場離脱は、本来の年次休暇権の行使とはいえず、当該時季指定日に年次休暇は成立しない。
重要事実
国鉄(当時)の職員であり労働組合の執行委員であった上告人は、事前に午後半日の年休を請求し、当局から事実上の承認を得ていた。その後、組合がストライキの実施を決定したことを知った上告人は、当初の年休請求を維持したまま職場を離脱した。上告人は、離脱中にスト決起集会でシュプレヒコールの指揮を執り、当局のスト対策(代替要員の乗務)に対して大声で抗議して職務執行を妨害するなど、争議行為に積極的な役割を果たした。
事件番号: 平成2(オ)576 / 裁判年月日: 平成3年11月19日
【結論(判旨の要点)】年次有給休暇制度は正常な勤務体制の枠内で休暇を認める趣旨であるため、事業場の正常な運営を阻害する目的で、争議行為に参加するために行われる休暇請求の維持・職場離脱は、本来の休暇権の行使とはいえず、休暇は成立しない。 第1 事案の概要:国鉄(当時)の職員で労働組合の執行委員であった上告人は、事前に午後…
あてはめ
上告人は、所属する津田沼電車区の正常な業務運営を阻害する目的で争議行為に参加しようとし、たまたま先に行っていた年休請求が承認されていることを奇貨として、当該請求を維持して職場を離脱したといえる。離脱後の行動も、集会での指揮や当局への抗議といった争議行為への積極的関与であり、これは正常な勤務体制を前提とする年次休暇制度の趣旨に明らかに反する。よって、本件請求は本来の年休権の行使とは評価できない。
結論
上告人の請求に係る時季指定日に年次休暇は成立しない。したがって、欠勤扱いとすること等は適法である。
実務上の射程
本判決は、年休の利用目的自体は自由であるとの原則(白石営林署事件等)を前提としつつ、事業場の業務阻害という具体的目的を伴う争議行為への流用を例外的に否定したものである。答案上は、時季指定権行使の限界(制度の趣旨逸脱)を論じる際の有力な規範となるが、あくまで「所属事業場の業務阻害目的」が認められる特殊な事案に限定して適用すべきである。
事件番号: 昭和41(オ)1420 / 裁判年月日: 昭和48年3月2日 / 結論: 破棄自判
一、年次有給休暇における休暇の利用目的は労働基準法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由であると解すべきである。 二、労働基準法三九条三項但書にいう「事業の正常な運営を妨げる」か否かは、当該労働者の所属する事業場を基準として判断すべきである。