抵当権者は、民法三九五条ただし書の規定により解除された短期賃貸借ないしこれを基礎とする転貸借に基づき抵当不動産を占有する者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として又は抵当権設定者の所有物返還請求権の代位行使として、その明渡しを求めることはできない。
民法三九五条ただし書の規定により解除された短期賃貸借ないしこれを基礎とする転貸借に基づき抵当不動産を占有する者に対する抵当権者の明渡請求の可否
民法369条,民法395条,民法423条
判旨
抵当権者は、旧民法395条但書により短期賃貸借が解除された場合であっても、抵当不動産の占有権原を包含しない以上、占有者に対し直接の明渡しや所有権に基づく代位請求をすることはできない。
問題の所在(論点)
旧民法395条但書に基づき解除された短期賃貸借の占有者に対し、抵当権者は抵当権に基づく妨害排除請求(物上請求)または債務者の所有権に基づく代位請求として、建物の明渡しを求めることができるか。
規範
1. 抵当権は、設定者が占有を移さずに提供した担保権であり、抵当権者に占有権原を付与するものではない。したがって、第三者が無権原で占有していても、それだけでは抵当権侵害には当たらない。 2. 短期賃貸借が解除された場合でも、その効力は抵当権者に対抗できない状態(不法占有と同様の状態)にするにとどまる。抵当権者に対し、直接に占有排除を求める権原まで付与するものではない。 3. 短期賃貸借に基づく占有それ自体は、原則として担保価値を減少させるものではないため、債権者代位権(民法423条)の行使も認められない。
重要事実
債務者Dは、本件土地建物に抵当権を設定した後、F・Gらに短期賃貸借を行い、さらに上告人A1総業らに転貸された。抵当権者である被上告人は、当該賃貸借が担保価値を損なうとして旧民法395条但書に基づき解除を求めるとともに、抵当権に基づく物上請求(妨害排除)または所有権に基づく代位請求として、A1総業に対し建物の明渡しを求めた。
あてはめ
1. 物上請求について:抵当権は不動産の占有を所有者に委ねる権利であり、解除によって占有権原が消滅したとしても、抵当権者に占有権原が移転するわけではない。不法占有者に対する場合と同様、抵当権者自身に占有排除の権原はない。 2. 代位請求について:短期賃貸借に基づく占有それ自体が直ちに担保価値を減少させるとはいえない。担保価値の保存は競売手続における引渡命令等で図られるべきであり、被担保債権保全のための代位行使は前提を欠く。
結論
抵当権者は、短期賃貸借が解除された後も、占有者に対し直接または代位により建物の明渡しを求めることはできない。
実務上の射程
本判決は抵当権の「非占有担保」としての本質を強調したものである。現行法下では短期賃貸借制度は廃止されたが、不法占有者等に対する明渡請求の可否については、後に「交換価値の実現が困難となるような特段の事情」がある場合に限定的に明渡請求を認めた最大判平11.11.24の射程を判断する際の基礎となる判例である。
事件番号: 平成2(オ)1598 / 裁判年月日: 平成6年3月25日 / 結論: 棄却
民法三九五条ただし書の規定による短期賃貸借の解除請求訴訟において解除判決が確定した場合には、右賃貸借関係は賃貸人との関係においても終了し、賃貸人は、賃借人に対し、目的不動産の明渡しを請求することができる。
事件番号: 昭和61(オ)857 / 裁判年月日: 昭和63年2月16日 / 結論: 棄却
抵当権者に対抗することができない農地の賃貸借であつても、所轄農業委員会等により当該賃借人以外の者に競買適格証明書を交付しない取扱いがされているため競買申出人が右賃借人に限定され、その結果、抵当権者に損害を及ぼすときに限り、抵当権者は、民法三九五条但書の準用により右賃貸借の解除を請求することができる。