抵当権者に対抗することができない農地の賃貸借であつても、所轄農業委員会等により当該賃借人以外の者に競買適格証明書を交付しない取扱いがされているため競買申出人が右賃借人に限定され、その結果、抵当権者に損害を及ぼすときに限り、抵当権者は、民法三九五条但書の準用により右賃貸借の解除を請求することができる。
抵当権者に対抗することができない農地の賃貸借が抵当権者に損害を及ぼすときと民法三九五条但書の準用による賃貸借の解除請求
民法395条,農地法3条2項1号(昭和54年法律第5号による改正前のもの)
判旨
抵当権設定登記後、差押え前に設定された農地の賃貸借が、農地法上の買受資格制限等により実質的に対抗力があるのと同様の状態を招き抵当権者に損害を及ぼす場合、民法395条但書(改正前)を準用して賃貸借の解除を請求できる。
問題の所在(論点)
抵当権設定登記後かつ差押え前に設定された、抵当権に対抗できない農地の賃貸借について、旧民法395条但書を準用して解除を請求することができるか。
規範
本来、抵当権に対抗できない賃貸借は競売手続上無視できるが、農地法上の運用により賃借人以外の者に競買適格証明書が交付されない等の事情がある場合には、実質的に対抗力があるのと同様の状態が生じる。このような場合、抵当権者に対抗できる短期賃貸借が損害を及ぼす場合に解除を認める旧民法395条但書の規定を準用し、抵当権者は当該賃貸借の解除を請求できると解すべきである。これは、対抗できる賃貸借が解除可能なのに、対抗できない賃貸借が解除できないとする不合理を避けるためである。
重要事実
債務者Eは、Dに対し貸金債権を担保するため本件農地に抵当権を設定し登記した。その後、被上告人が本件抵当権を譲り受けた。一方、上告人AはEから本件農地を賃借し、抵当権設定登記後に農地法3条の許可を受けた(賃貸期間10年)。被上告人が競売を申し立てたところ、農業委員会は農地法の規定に基づき、賃借人A以外の者には競買適格証明書を交付しない取扱いをした。このため競買人がAに限定され、鑑定評価額が賃借権のない場合の約半分に低下し、被上告人の債権回収に損害が生じる状態となった。
あてはめ
本件賃貸借は、農地法3条の許可が抵当権設定登記後であり、かつ期間が10年であるため抵当権者に対抗できない。しかし、農業委員会の取扱いにより、実質的にはA以外の者が競落できない状態となっており、対抗力があるのと同様の効果が生じている。その結果、農地の評価額が賃借権のない場合の半額にまで低下し、抵当権者である被上告人に損害を及ぼしている。このような状況は、旧民法395条但書が想定する「抵当権者に損害を及ぼす」場合に該当し、同条の準用が認められる。
結論
抵当権者は、旧民法395条但書を準用して本件賃貸借の解除を請求することができる。
実務上の射程
現在は民法395条が改正され短期賃貸借保護制度が廃止されたが、農地法の特殊な規制(耕作者保護)が競売手続に及ぼす実質的な影響を考慮し、条文の類推適用や準用によって抵当権者の保護を図った判断枠組みとして、制度の隙間を埋める解釈の先例となり得る。
事件番号: 昭和44(オ)893 / 裁判年月日: 昭和44年12月18日 / 結論: 棄却
民法三九五条により抵当権者に対抗しうる農地の短期賃貸借の期間が抵当権の実行による差押の効力の生じた後に満了した場合には、賃借人は、農地法一九条による法定更新をもつて抵当権者に対抗できない。
事件番号: 昭和26(オ)257 / 裁判年月日: 昭和34年3月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】農地法(旧農地調整法)上の「一時賃貸借」に該当する場合、賃貸借の解約等について知事の許可を要せず、便宜的になされた許可における正当事由の有無も問題とならない。 第1 事案の概要:農地の賃借人と賃貸人の間において、当該賃貸借契約が一時的なものであると認定された事案。知事は便宜的に当該賃貸借に関する許…
事件番号: 昭和36(オ)1155 / 裁判年月日: 昭和37年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約における賃借人の債務不履行を理由とする解除が認められるためには、単なる履行遅滞のみでは足りず、その不履行が賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊し、契約の継続を困難にする程度に至っていることを要する。 第1 事案の概要:上告人(賃貸人)は、訴外D(賃借人)が小作料を支払わなかったことを理由…
事件番号: 平成1(オ)1209 / 裁判年月日: 平成3年3月22日 / 結論: その他
抵当権者は、民法三九五条ただし書の規定により解除された短期賃貸借ないしこれを基礎とする転貸借に基づき抵当不動産を占有する者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として又は抵当権設定者の所有物返還請求権の代位行使として、その明渡しを求めることはできない。