動産売買の先取特権者は,物上代位の目的債権が譲渡され,第三者に対する対抗要件が備えられた後においては,目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできない。
動産売買の先取特権者による物上代位権の行使と目的債権の譲渡
民法304条,民法322条,民法467条
判旨
動産売買の先取特権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する対抗要件が備えられた後は、当該債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできない。
問題の所在(論点)
動産売買の先取特権者は、目的債権(転売代金債権)が譲渡され第三者対抗要件が具備された後であっても、当該債権を差し押さえて物上代位権を行使できるか。民法304条1項但書の「払渡し又は引渡し」に債権譲渡が含まれるかが問題となる。
規範
民法304条1項但書の「払渡し又は引渡し」には債権譲渡も含まれる。動産売買の先取特権は抵当権と異なり公示方法が存在しないため、同条項の差押要件は、債務者による二重弁済の防止のみならず、目的債権の譲受人等の第三者の利益を保護する趣旨を含む。したがって、目的債権について債権譲渡の対抗要件が具備された後は、先取特権者は物上代位権を行使し得ない。
重要事実
DはEに対し商品を売り渡し、Eは上告人(買主)に対し当該商品を転売した(本件転売代金債権)。Eが破産し、破産管財人は裁判所の許可を得て、被上告人に対し本件転売代金債権を譲渡した。被上告人は上告人に対し、内容証明郵便により債権譲渡の通知を完了した(対抗要件具備)。その後、Dは動産売買の先取特権に基づき本件転売代金債権を差し押さえた。被上告人が上告人に対し、債権譲受人として支払を求めた事案である。
あてはめ
本件では、Dが動産売買の先取特権に基づく差し押さえを行う前に、Eから被上告人への債権譲渡がなされ、確定日付ある通知による対抗要件が具備されている。公示を欠く動産先取特権において、第三者である債権譲受人の期待を保護すべきであるから、対抗要件具備は「払渡し」に準じ、これ以降の差し押さえは認められない。したがって、Dによる差押命令は被上告人に対抗できず、上告人は被上告人に対して支払義務を負う。
結論
動産売買の先取特権に基づく物上代位は、債権譲渡の対抗要件具備後は認められない。被上告人の請求は認められる。
実務上の射程
抵当権に基づく物上代位では債権譲渡後も差押えが可能とする判例(最判平10.1.30)との違いに注意が必要。公示の有無を理由に結論を分けているため、答案では「公示を欠く動産先取特権の特殊性」を強調して論じる。動産先取特権の物上代位の限界を画する重要判例である。
事件番号: 平成8(オ)673 / 裁判年月日: 平成10年2月10日 / 結論: 棄却
抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができる。