1 人はみだりに自己の容ぼう,姿態を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有し,ある者の容ぼう,姿態をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。 2 写真週刊誌のカメラマンが,刑事事件の被疑者の動静を報道する目的で,勾留理由開示手続が行われた法廷において同人の容ぼう,姿態をその承諾なく撮影した行為は,手錠をされ,腰縄を付けられた状態の同人の容ぼう,姿態を,裁判所の許可を受けることなく隠し撮りしたものであることなど判示の事情の下においては,不法行為法上違法である。 3 人は自己の容ぼう,姿態を描写したイラスト画についてみだりに公表されない人格的利益を有するが,上記イラスト画を公表する行為が社会生活上受忍の限度を超えて不法行為法上違法と評価されるか否かの判断に当たっては,イラスト画はその描写に作者の主観や技術を反映するものであり,公表された場合も,これを前提とした受け取り方をされるという特質が参酌されなければならない。 4 刑事事件の被告人について,法廷において訴訟関係人から資料を見せられている状態及び手振りを交えて話しているような状態の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為は,不法行為法上違法であるとはいえない。 5 刑事事件の被告人について,法廷において手錠,腰縄により身体の拘束を受けている状態の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為は,不法行為法上違法である。
1 人の容ぼう,姿態をその承諾なく撮影する行為と不法行為の成否 2 写真週刊誌のカメラマンが刑事事件の法廷において被疑者の容ぼう,姿態を撮影した行為が不法行為法上違法とされた事例 3 人の容ぼう,姿態を描写したイラスト画を公表する行為と不法行為の成否 4 刑事事件の法廷における被告人の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為が不法行為法上違法とはいえないとされた事例 5 刑事事件の法廷において身体の拘束を受けている状態の被告人の容ぼう,姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為が不法行為法上違法とされた事例
民法709条,民法710条,憲法13条,刑訴規則215条
判旨
人の容貌等をみだりに撮影・公表されない人格的利益は、被撮影者の地位、目的、態様、必要性等を総合考慮し、受忍限度を超える場合に不法行為法上違法となる。法廷内での隠し撮り写真は違法とされる一方、イラスト画についてはその主観的特質を考慮し、手錠・腰縄姿を描くなど侮辱的な場合に限り違法となる。
問題の所在(論点)
1.法廷内での刑事被告人の容貌等を無断で隠し撮りし、雑誌に掲載する行為が肖像権を侵害し不法行為(民法709条)を構成するか。 2.法廷内での被告人の動静を描いたイラスト画を公表する行為は、不法行為法上いかなる基準で違法性が判断されるか。
規範
1.肖像権侵害の判断枠組み:人の容貌等の撮影が違法となるかは、被撮影者の社会的地位、活動内容、撮影の場所、目的、態様、必要性等を総合考慮し、当該人格的利益の侵害が「社会生活上受忍の限度」を超えるか否かで判断する。撮影が違法な場合、その公表も原則として違法となる。 2.イラスト画の特質:イラスト画は作者の主観や技術が反映されるという特質があるため、公表の違法性判断においては写真との差異を参酌すべきである。
重要事実
写真週刊誌のカメラマンが、和歌山カレー事件の勾留理由開示手続において、裁判所の許可なく小型カメラを法廷に持ち込み、手錠・腰縄姿の被告人を無断で隠し撮りした。後に同誌は、その写真(本件写真)を掲載した記事と、法廷内での被告人の様子を描いたイラスト画(本件イラスト画)を掲載した記事を相次いで発行した。イラスト画には、手錠・腰縄姿を描いたものと、訴訟関係人と話す様子等を描いたものの両方が含まれていた。
あてはめ
1.本件写真の撮影は、裁判所規則に違反する隠し撮りであり、態様が不相当である。また、手錠・腰縄姿をあえて撮影する必要性も認められず、被告人が任意に公衆の前に姿を現した状況でもないため、受忍限度を超え違法である。違法な撮影に基づく公表も同様に違法となる。 2.イラスト画のうち、訴訟関係人と対話する等の動静を描いたものは、法廷報道として社会的に是認された範囲内であり受忍限度を超えない。しかし、手錠・腰縄により身体拘束を受けている状態を描いたものは、被撮影者を侮辱し名誉感情を侵害するものであり、受忍限度を超え違法である。
結論
1.写真の撮影および公表は、不法行為を構成する。 2.イラスト画のうち、手錠・腰縄姿を描いたものの公表は不法行為を構成するが、それ以外の通常の動静を描いたものは違法ではない。
実務上の射程
肖像権侵害の一般的判断枠組み(受忍限度論)を示したリーディングケースである。特に「撮影の態様」や「必要性」が重視される。答案上、写真については撮影段階の違法性が公表の違法性に直結する点、イラストについては「侮辱的か否か」という表現内容の特質が考慮される点に注意して書き分ける必要がある。
事件番号: 平成21(受)2056 / 裁判年月日: 平成24年2月2日 / 結論: 棄却
1 人の氏名,肖像等を無断で使用する行為は,(1)氏名,肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し,(2)商品等の差別化を図る目的で氏名,肖像等を商品等に付し,(3)氏名,肖像等を商品等の広告として使用するなど,専ら氏名,肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に,当該顧客吸引力を排他的に…