定款に株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定めのある会社の株式について,会社に対して株式の譲渡を承認すべきこと及びこれを承認しないときは他に譲渡の相手方を指定すべきことを請求した株主は,取締役会から指定された者が株主に対して当該株式を売り渡すべき旨を請求するまで,その請求を撤回することができる。 (反対意見がある。)
定款による譲渡制限のされた株式につき会社に対して譲渡の承認及び相手方指定の請求をした株主がその請求を撤回することのできる時期
商法204条1項,商法(平成13年法律第128号による改正前のもの)204条ノ2,商法(平成13年法律第128号による改正前のもの)204条ノ3
判旨
譲渡制限株式の株主が譲渡承認及び譲渡相手方の指定を請求した場合、指定された者が売渡請求を行うまでは、株主は当該請求を自由に撤回することができる。
問題の所在(論点)
譲渡制限株式の譲渡承認及び譲渡相手方の指定を請求した株主は、取締役会により指定された者が売渡請求を行う前に、当該請求を撤回することができるか。民法上の契約の申込みの撤回制限規定の類推適用の可否が問題となる。
規範
定款により譲渡制限が付された株式の譲渡手続において、株主が会社に対して行う譲渡承認及び譲渡相手方の指定請求(会社法138条1号・2号参照)は、取締役会が指定した者が当該株主に対し「売り渡すべき旨を請求」(同141条1項)するまでは撤回が可能である。民法521条1項(現523条1項)や524条(現525条)の類推適用による撤回制限は認められない。
重要事実
譲渡制限株式を有する株主Xは、会社Aに対し、株式を第三者Eへ譲渡することの承認と、不承認時の譲渡相手方の指定を請求した。Aの取締役会は、Eへの譲渡を不承認とし、相手方Yを譲渡相手方に指定してXに通知した。これに対しXは、指定の通知を受けた後、Yが売渡請求を行う前に、本件譲渡承認請求を撤回する旨を通知した。しかし、Yはその後、供託を行った上でXに対し株式の売渡請求を行い、裁判所へ売買価格の決定を申し立てた。
事件番号: 令和4(許)8 / 裁判年月日: 令和5年5月24日 / 結論: 棄却
会社法144条2項に基づく譲渡制限株式の売買価格の決定の手続において裁判所が上記売買価格を定める場合に、上記譲渡制限株式の評価額の算定過程において上記譲渡制限株式に市場性がないことが考慮されていることはうかがわれないなど判示の事情の下においては、DCF法によって算定された上記評価額から非流動性ディスカウント(非上場会社…
あてはめ
第一に、株式譲渡制限の趣旨は、会社にとって好ましくない者の参入防止にあり、撤回を認めてもこの利益は害されない。第二に、株主は相手方や価格を自由に選択できず、通常の申込みとは状況を異にするため、民法の申込みの撤回制限規定を類推する基礎を欠く。第三に、指定された者は株主が自ら選択した相手方ではなく、その信頼を過度に保護して撤回を禁じることは、株式の自由譲渡性を制限された株主の利益を不当に損なう。したがって、会社法上の詳細な規定の中に撤回を否定する条項がない以上、売渡請求によって売買が成立する(同141条2項)までは、株主による撤回を認めるべきである。
結論
株主は、指定された者が売渡請求をするまでは請求を撤回できる。本件では、Yの売渡請求前にXが撤回を通知しているため、売買は成立せず、価格決定の申立ては却下されるべきである。
実務上の射程
譲渡制限株式の売買価格決定申立事件において、前提となる売買契約の成否を判断する際の基準となる。答案上では、会社法が定める譲渡手続の各段階(承認請求、指定通知、供託、売渡請求)を明示した上で、売渡請求到達という「成約」のタイミング以前であれば株主の離脱(撤回)が可能であるという文脈で使用する。
事件番号: 令和4(許)11 / 裁判年月日: 令和5年10月26日 / 結論: 破棄自判
吸収合併消滅株式会社の株主が吸収合併をするための株主総会に先立って当該吸収合併に反対する旨の議決権の代理行使を第三者に委任することを内容とする委任状を上記会社に送付した場合において、次の⑴及び⑵の事実関係の下では、上記株主が上記会社に対して上記委任状を送付したことは、会社法785条2項1号イにいう、吸収合併等をするため…
事件番号: 平成23(許)7 / 裁判年月日: 平成24年3月28日 / 結論: 棄却
1 振替株式について会社法116条1項に基づく株式買取請求を受けた株式会社が,同法117条2項に基づく価格の決定の申立てに係る事件の審理において,同請求をした者が株主であることを争った場合には,その時点で既に当該株式について振替機関の取扱いが廃止されていたときであっても,その審理終結までの間に社債等振替法154条3項所…
事件番号: 平成23(許)21 / 裁判年月日: 平成24年2月29日 / 結論: 破棄差戻
1 株式移転完全子会社の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」は,原則として,株式移転により組織再編による相乗効果その他の企業価値の増加が生じない場合には,当該株式買取請求がされた日における,株式移転を承認する旨の株主総会決議がされることがなければその株式が有したであろう価格をいうが,それ以外の場合には,株式移…
事件番号: 平成29(許)7 / 裁判年月日: 平成29年8月30日 / 結論: 棄却
会社法179条の4第1項1号の通知又は同号及び社債,株式等の振替に関する法律161条2項の公告がされた後に会社法179条の2第1項2号に規定する売渡株式を譲り受けた者は,同法179条の8第1項の売買価格の決定の申立てをすることができない。