甲が,「無所有共用一体社会」の実現を活動の目的としている団体乙に加入するに当たり,乙との約定に基づき乙に対し全財産を出えんし,その後乙から脱退した場合において,終生乙の下で生活を営むことを目的とし,これを前提として出えんをしたこと,脱退するまでの相当期間乙の下で生活をしていたこと,自己の提供する財産が乙や他の構成員のためにも使用されることを承知の上で出えんをしたことなど判示の事情の下では,甲は,乙に対し,出えんした財産の総額,甲が乙の下で生活をしていた期間,その間に甲が乙から受け取った利得の総額,甲の年齢,稼働能力等の諸般の事情及び条理に照らし,甲の脱退の時点で甲への返還を肯認するのが合理的かつ相当と認められる範囲につき,不当利得返還請求権を有する。
「無所有共用一体社会」の実現を活動の目的としている団体に加入するに当たり全財産を出えんした者がその後同団体から脱退した場合に合理的かつ相当と認められる範囲で不当利得返還請求権を有するとされた事例
民法703条
判旨
全財産を出えんして団体に加入した者が脱退した場合、出えんの基礎が失われるため、条理上相当と認められる範囲で不当利得返還請求が認められる。また、返還請求を一切認めない旨の約定は、脱退の自由を著しく制約する限りで公序良俗に反し無効である。
問題の所在(論点)
団体参画時の全財産出えん約定が脱退により失効するか、及び返還請求を一切禁ずる特約の公序良俗違反の有無とその返還範囲が問題となる。
規範
1. 終生特定の生活共同体で生活することを前提とした全財産の出えん約定は、脱退によりその基礎を失い、将来に向かって効力を失う。この場合、出えん者は法律上の原因を欠くに至った財産について、不当利得返還請求権を有する。 2. 返還の範囲は、出えん額、在籍期間、享受した生活費等の利得、脱退者の年齢・稼働能力等の諸般の事情及び条理に照らし、返還を肯認するのが合理的かつ相当と認められる範囲に限られる。 3. 返還請求を一切しない旨の約定は、脱退後の資力を奪い、事実上脱退を制限するものであり、上記相当範囲の請求を制限する部分は公序良俗(民法90条)に反し無効である。
事件番号: 平成13(受)505 / 裁判年月日: 平成15年4月11日 / 結論: 破棄自判
入会権者らの総有に属する入会地を売却するに当たり入会権者らが入会権の放棄をした場合であっても,入会権者らが入会地の管理運営等のための管理会を結成し,その規約において入会地の処分等を管理会の事業とし,入会地の売却が管理会の決議に基づいて行われ,売却後も入会権者らの有する他の入会地が残存し,管理会も存続しているなど判示の事…
重要事実
上告人は、理想社会の実現を目的とする権利能力なき社団である被上告人に「無所有」の理念の下、全財産(約2億9千万円)を出えんして参画した。その際、「権利主張・返還請求等は一切しない」旨を誓約した。その後、家族の事情や人間関係の悪化から上告人は被上告人を脱退したが、脱退時の返還額が不十分であるとして、不当利得返還請求等を提起した。原審は1億円の返還を認めた。
あてはめ
上告人の出えんは、終生被上告人の下で生活することを前提としたものであり、脱退によりその目的・前提が消滅したため、出えん行為は法律上の原因を欠く。返還範囲については、約2億9千万円という多額の出えんに対し、在籍期間が約5年半であること、脱退時に無収入の子供を扶養しており自立した生活基盤が必要であることを考慮し、条理上1億円を返還するのが相当である。不変換特約については、全財産を失った上告人の脱退の自由を著しく制約するものであるから、上記相当額の範囲で無効と解される。
結論
上告人は、条理上相当と認められる範囲(本件では1億円)において、被上告人に対し不当利得返還請求権を有する。不返還特約はその限度で無効である。
実務上の射程
宗教団体や生活共同体からの脱退に伴う財産返還問題に射程を有する。全額返還ではなく「条理による相当範囲」に限定した点、および不当利得の構成をとりつつ将来効(契約の失効)を認めた点が特徴的であり、答案上は民法90条と不当利得(703条等)を組み合わせて論じるべきである。
事件番号: 平成21(受)247 / 裁判年月日: 平成21年11月9日 / 結論: 破棄自判
民法704条後段の規定は,悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りにおいて不法行為責任を負うことを注意的に規定したものにすぎず,悪意の受益者に対して不法行為責任とは異なる特別の責任を負わせたものではない。
事件番号: 昭和27(オ)726 / 裁判年月日: 昭和29年9月10日 / 結論: 棄却
将来不成立の場合は返還を受くべき約旨の下に将来成立すべき賃借権の対価として金員を交付した場合において、その賃借権が不成立に終つたときは、その金員の交付をもつて権利金の交付と目すべきでなくこれをもつて直ちに不法原因給付ということはできない。
事件番号: 平成17(受)1996 / 裁判年月日: 平成19年3月8日 / 結論: その他
法律上の原因なく代替性のある物を利得した受益者は,利得した物を第三者に売却処分した場合には,損失者に対し,原則として,売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負う。