選挙の効力に関する争訟を審理する選挙管理委員会又は裁判所が,投票管理者が公職選挙法施行令63条3項に違反して投票箱に入れなかったために無効票と確定された不在者投票の内容について,いずれの候補者に対する投票であるかなどを取り調べ,その結果を選挙人が表明した意思として取り扱って公職選挙法205条1項に定める選挙の結果に異動を及ぼすおそれの有無を判断することは,許されない。
公職選挙法施行令63条3項に違反して投票箱に入れられなかったために無効票と確定された不在者投票の内容を取り調べて公職選挙法205条1項に定める選挙の結果に異動を及ぼすおそれの有無を判断することの許否
公職選挙法205条1項,公職選挙法施行令63条3項
判旨
投票箱に入れられず無効票と確定した投票の内容を、選挙後の争訟において取り調べ、それを選挙人の意思として得票数に算入等した上で選挙結果への影響を判断することは、公職選挙法の予定しないところであり許されない。
問題の所在(論点)
公職選挙法205条1項の「選挙の結果に異動を及ぼすおそれ」の判断において、無効票と確定した投票の内容を証拠調べ等によって調査し、その結果を判断材料に含めることが許されるか。
規範
公職選挙法205条1項の「選挙の結果に異動を及ぼすおそれ」の有無を判断するにあたり、無効票と確定された個々の投票内容を取り調べていずれの候補者への投票かを明らかにし、それを選挙人の意思として得票数に加算(あるいは当選者への投票か否かを判定)することは、法の定める厳格な開票・当選人決定手続によらずに得票数を確定し直すに等しく、法の予定しないものとして許されない。
重要事実
鹿児島県a町議会議員選挙(定数20)において、不在者投票97票が投票箱に入れられないまま開票作業が終了し、20人の当選人が決定した。最下位当選人と最高位落選人の得票差は20票であったが、選挙終了後にゴミ袋から未開封の当該97票が発見された。県選挙管理委員会が選挙無効の裁決をしたため、当選人らが、当該97票の内訳を点検・証人尋問等で明らかにして「選挙結果に異動を及ぼすおそれがないこと」を立証しようとしたが、裁判所がこれらの証拠申出を却下した事案。
事件番号: 平成1(行ツ)167 / 裁判年月日: 平成2年4月12日 / 結論: 棄却
不在者投票の立会人が、立会いをしつつ併せて不在者投票事務の補助執行に従事していたため、立会人の監視機関としての役割を十分に果たすことができない状態にあったときは、その間にされた不在者投票は、公職選挙法四九条一項同法施行令五六条一項、二項の規定に違反した違法のものというべきである。
あてはめ
法は、開票・選挙会手続の公開性や立会人制度(法62条、64条、66条等)を設け、厳格な所定の手続により選挙人の意思が確定されることを求めている。本件の97票は、投票管理者が法施行令63条3項に違反して投票箱に入れなかったため、開票手続等を経ていない無効票である。これを争訟段階で個別に調査し、特定の候補者の得票として扱うことは、法の予定する公開・公正な手続を潜脱するに等しい。したがって、これらを除外して判断すべきであり、得票差20票を上回る97票の不当な不参入がある以上、客観的に選挙結果に異動を及ぼすおそれがあるといえる。
結論
無効票の内容を調査して選挙結果への影響を判断することは許されない。本件では得票差を超える無効票が存在するため、選挙は無効である。
実務上の射程
選挙無効訴訟において、手続上の違法により無効となった投票の「中身」を事後的に立証して無効原因を否定することはできないという規範を示したもの。投票の秘密維持や手続の定型性を重視する姿勢であり、答案上は205条1項の「おそれ」の認定手法として活用する。
事件番号: 昭和32(オ)1054 / 裁判年月日: 昭和33年7月4日 / 結論: 棄却
選挙事務従事者が有効と判断した投票および白票の大部分について、選挙立会人(開票立会人)に点検せしめることなく、また意見を聴くこともなく選挙長(開票管理者)がその効力を決定した場合、その選挙は無効とすべきである。
事件番号: 昭和37(オ)697 / 裁判年月日: 昭和37年12月26日 / 結論: 棄却
一 証明書を提出することができない理由記載欄に「証明者なし」と記載した選挙人自身が作成した疎明書と題する書面を提出しただけでは、公職選挙法施行令第五二条第三項の疎明があつたとはいえない。 二 不在者の投票用封筒の表面および裏面またはそのいずれかに公職選挙法施行令第五六条第六〇条所定事項の記載のない投票は、受理すべきでな…
事件番号: 昭和51(行ツ)57 / 裁判年月日: 昭和51年10月8日 / 結論: 破棄自判
一、不在者投票をしようとする選挙人は、不在者投票用紙等の交付を使者によつて請求することも許される。 二、選挙管理委員会が使者による不在者投票用紙等の交付請求を受理するにあたつてなすべき右使者と称する者が真実の使者であるかどうかの確認は、真実の使者であることを疑うに足りる特段の事情のない限り、その使者と称する者の選挙人何…
事件番号: 昭和45(行ツ)56 / 裁判年月日: 昭和46年4月15日 / 結論: 破棄自判
不在者投票を投票所の閉鎖時刻までに投票管理者に送致せず、違法にその効力を失わしめたことは、選挙無効の原因となりうる。