競走馬の所有者は,当該競走馬の名称を無断で利用したゲームソフトを製作,販売した業者に対し,その名称等が有する顧客吸引力などの経済的価値を独占的に支配する財産的権利(いわゆる物のパブリシティ権)の侵害を理由として当該ゲームソフトの製作,販売等の差止請求又は不法行為に基づく損害賠償請求をすることはできない。
競走馬の所有者が当該競走馬の名称を無断で利用したゲームソフトを製作,販売した業者に対しいわゆる物のパブリシティ権の侵害を理由として当該ゲームソフトの製作,販売等の差止請求又は不法行為に基づく損害賠償請求をすることの可否
民法198条,民法199条,民法206条,民法709条,知的財産基本法2条2項
判旨
競走馬の所有権は有体物としての支配権に留まり、名称等の無体物としての経済的価値を直接排他的に支配する権能は含まれないため、法令等の根拠がない限り、物のパブリシティ権を理由とする差止めや損害賠償請求は認められない。
問題の所在(論点)
物の所有者は、その名称等が有する顧客吸引力等の経済的価値を独占的に支配する権利(いわゆる物のパブリシティ権)を有するか。また、第三者による名称の無断利用が所有権侵害や不法行為を構成するか。
規範
1. 物の所有権は有体物に対する排他的支配権能であり、名称等の無体物としての面を直接排他的に支配する権能には及ばない。したがって、有体物としての支配を侵さない名称の利用は所有権侵害を構成しない。 2. 知的財産権関係の各法律は、自由な経済・文化活動への制約を考慮し、排他的使用権の範囲を厳格に定めている。この趣旨に鑑みれば、明文の根拠なく競走馬の所有者に名称等の排他的使用権を認めることは相当ではなく、無断利用を不法行為と解することもできない。 3. 名称使用料の支払契約の実例があっても、紛争回避等の目的があり得るため、直ちに独占的利用を認める社会的慣習や慣習法の存在を肯定することはできない。
重要事実
事件番号: 昭和54(オ)145 / 裁判年月日: 昭和56年10月13日 / 結論: 棄却
一 不正競争防止法一条一項一号にいう他人の商品との混同の事実が認められる場合には、特段の事情がない限り、右他人は営業上の利益を害されるおそれがある者にあたるというべきである。 二 商標権者が登録商標に類似する標章を使用する行為は、不正競争防止法六条にいう「商標法ニ依リ権利ノ行使ト認メラルル行為」に該当しない。
ゲームソフト製造販売業者である被告は、競走馬の所有者である原告らの承諾を得ずに、実在する競走馬の名称を使用した競馬ゲームを製作・販売した。原告らは、競走馬の名称等が有する顧客吸引力(物のパブリシティ権)を独占的に支配する財産的権利を有すると主張し、不法行為に基づく損害賠償および差止めを請求した。原審は、著名な競走馬についてのみ経済的価値を認め、損害賠償請求を一部認容したため、双方が上告した。
あてはめ
被告の行為はゲームソフト内での名称利用に留まり、競走馬の有体物としての面に対する原告らの排他的支配を侵していないため、所有権侵害はない。また、現行の知的財産権法規において競走馬の名称を保護する規定はなく、法的根拠のないまま排他的権利を認めることは、自由な経済活動を過度に制約する。契約実例の存在も慣習法の成立を裏付けるには足りない。したがって、被告による名称使用が不法行為にあたるとする余地はない。
結論
物のパブリシティ権は認められず、所有権侵害も不法行為も成立しない。原告らの請求(差止め・損害賠償)はすべて棄却される。
実務上の射程
「物のパブリシティ権」の成立を明確に否定した重要判例である。人(著名人)のパブリシティ権とは異なり、物については所有権の効力としても不法行為の保護対象としても、無体物的価値の独占を認めない。答案上は、知的財産権等の特別の根拠がない限り、物の名称等の利用は原則として自由であることを論じる際の根拠となる。
事件番号: 平成13(受)952等 / 裁判年月日: 平成14年4月25日 / 結論: 棄却
家庭用テレビゲーム機に用いられる映画の著作物の複製物を公衆に譲渡する権利は,いったん適法に譲渡された複製物について消尽し,その効力は,当該複製物を公衆に提示することを目的としないで再譲渡する行為には及ばない。
事件番号: 平成13(受)216 / 裁判年月日: 平成15年4月11日 / 結論: 破棄差戻
いわゆる観光ビザにより我が国に滞在した外国人であるデザイナー甲が,アニメーション等の企画,撮影等を業とする株式会社乙の従業員宅に居住し,その事務所で作業を行い,乙から毎月基本給名目で一定額の金銭の支払を受けて給料支払明細書も受領し,乙の企画したアニメーション等に使用するものとして図画を作成したなど判示の事実関係の下にお…
事件番号: 昭和60(オ)1576 / 裁判年月日: 平成2年7月20日 / 結論: 破棄自判
漫画の主人公の観念、称呼を生じさせる登録商標の商標登録出願当時、既にその主人公の名称が漫画から想起される人物像と不可分一体のものとして世人に親しまれていた場合において、右主人公の名称の文字のみから成る標章が右漫画の著作権者の許諾に基づいて商品に付されているなど判示の事情の下においては、右登録商標の商標権者が右標章につき…
事件番号: 昭和61(オ)30 / 裁判年月日: 昭和63年7月19日 / 結論: その他
一 氏名、商号、商標等自己の商品たることを示す表示が不正競争防止法一条一項一号の周知性を具備すべき時点は、同号に該当する商品主体混同行為の差止請求の関係では差止請求訴訟の事実審の口頭弁論終結時、右行為による損害賠償請求の関係では損害賠償請求の対象である行為のされた時である。 二 第三者が出願公開のされた実用新案登録出願…