1 使用者等があらかじめ定める勤務規則その他の定めにより職務発明について特許を受ける権利又は特許権を使用者等に承継させた従業者等は,当該勤務規則その他の定めに使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても,これによる対価の額が特許法35条3項及び4項の規定に従って定められる相当の対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相当する対価の支払を求めることができる。 2 特許法35条3項の規定による相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効は,使用者等があらかじめ定める勤務規則その他の定めに対価の支払時期に関する条項がある場合には,その支払時期から進行する。
1 職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させた従業者等が勤務規則その他の定めによる対価の額が特許法35条3項及び4項の規定に従って定められる相当の対価の額に満たないときに不足額を請求することの可否 2 勤務規則その他の定めに対価の支払時期に関する条項がある場合における特許法35条3項の規定による相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効の起算点
特許法35条,民法166条1項
判旨
特許法35条3項に基づく「相当の対価」は、勤務規則等の定めにかかわらず同条4項の基準に合致する額である必要があり、消滅時効の起算点は原則として規則等で定められた支払時期となる。
問題の所在(論点)
1. 勤務規則等で定められた対価の額が、法35条4項の基準に基づく額に満たない場合、従業者はその不足分を請求できるか。 2. 相当の対価の支払義務が法35条3項に基づくものである場合、消滅時効の起算点はいつか。
規範
1. 勤務規則等に対価の条項がある場合でも、その額が特許法35条4項の規定に従って算出される額に満たないときは、従業者等は同条3項に基づき、不足額の支払を請求できる。 2. 相当の対価の支払を受ける権利の消滅時効は、勤務規則等に対価の支払時期に関する定めがある場合には、その定められた支払時期から進行する。
重要事実
光学機械メーカーの元従業員Xは、在職中にビデオディスク装置に関する「職務発明」を行った。会社Yの規定には、職務発明の権利を承継する代わりに「100万円を上限とする1回限りの報償金」を支払う旨の定めがあった。Xは規定に基づき計21万1000円を受領したが、承継した特許からYが多額の実施料を得ているとして、法35条3項に基づき不足する「相当の対価」を求めて提訴した。これに対しYは、規定の有効性と消滅時効(権利承継時から進行する旨)を主張して争った。
あてはめ
1. 法35条は使用者・従業者の利害調整を図る趣旨であり、発明の価値が具体化する前にあらかじめ対価を確定的に定めることは法の趣旨に反する。したがって、規則等の額が法4項の趣旨(利益の額や貢献度)に合致して初めて「相当の対価」といえるため、不足額の請求は可能である。 2. 対価の支払時期について法に別段の定めはないため、契約自由の原則に基づき勤務規則等の定めが尊重される。本件規則では実施料受領から2年間の実績に基づき支払う旨があるため、その支払時期が到来するまでは権利行使に「法律上の障害」があるといえ、時効は進行しない。
結論
1. 規則等の定めにかかわらず、法35条4項の基準に満たない場合は不足額を請求できる。 2. 消滅時効は、勤務規則等に定められた支払時期から進行する。本件では提訴時点で時効は完成していない。
実務上の射程
平成16年改正前の特許法35条に関するリーディングケース(通称:オリンパス事件)。現行法35条4項・5項(手続の適正性による対価の決定)の解釈においても、契約による制限の限界を示す重要な指標となる。答案上は、私的自治と法の強行規定的性質の調和を論じる際の論拠として活用する。
事件番号: 昭和45(オ)389 / 裁判年月日: 昭和45年10月13日 / 結論: 棄却
使用者が被用者に求償権を行使するに当つて、使用者の事情の性格、規模、被用者の業務の内容、加害行為の態様その他諸般の事情を考慮し、求償権の行使が被用者に対して公平の観念に反すると認められる場合は、民法七一五条三項に基づく求償権の行使は許されない。