1 抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者であっても,抵当権設定登記後に占有権原の設定を受けたものであり,その設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ,その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは,抵当権者は,当該占有者に対し,抵当権に基づく妨害排除請求として,上記状態の排除を求めることができる。 2 抵当不動産の占有者に対する抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり,抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には,抵当権者は,当該占有者に対し,直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができる。 3 抵当権者は,抵当不動産に対する第三者の占有により賃料額相当の損害を被るものではない。
1 所有者から占有権原の設定を受けて抵当不動産を占有する者に対して抵当権に基づく妨害排除請求をすることができる場合 2 抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり抵当権者が直接自己への抵当不動産の明渡しを請求することができる場合 3 第三者による抵当不動産の占有と抵当権者についての賃料額相当の損害の発生の有無
民法369条,民法709条
判旨
抵当権の実行を妨害する目的で占有権原を設定し、交換価値の実現を妨げている占有者に対し、抵当権者は妨害排除請求として直接自己への明渡しを求めることができるが、賃料相当損害金の請求は認められない。
問題の所在(論点)
1. 占有権原を有する第三者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として直接自己への明渡しを求めることができるか。 2. 抵当権侵害を理由とする不法行為に基づき、賃料相当損害金の請求ができるか。
規範
1. 抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けた者であっても、①競売手続を妨害する目的が認められ、②その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて優先弁済請求権の行使が困難となる状態があるときは、抵当権者は抵当権に基づく妨害排除請求ができる。 2. 所有者において抵当不動産の適切な維持管理を期待できない場合には、抵当権者は直接自己への明渡しを求めることができる。 3. もっとも、抵当権は使用収益権を目的としないため、占有侵害があっても賃料相当損害金の賠償請求は認められない。
重要事実
建物請負代金を回収できなかった被上告人(抵当権者)に対し、債務者D社は抵当権を設定したが、後にD社は妨害目的で、実質的に同一グループの上告人に対し、適正賃料を大幅に下回る低廉な賃料かつ多額の保証金という不自然な条件で本件建物を賃貸・転貸し、占有させた。D社代表者は抵当権の放棄を要求するなど協力的な管理が期待できない状況であったため、被上告人が上告人に対し、抵当権に基づき直接自己への明渡しと賃料相当損害金の支払いを求めた。
あてはめ
1. 本件の賃貸借・転貸借は、適正額を大幅に下回る賃料や高額な保証金の設定、関係者間の取引である点から、競売妨害目的が認められる。これにより交換価値の実現が妨げられ、優先弁済権の行使が困難な状態にある。また、所有者D社は自ら妨害に加担しており適切な管理を期待できないため、直接の明渡し請求が認められる。 2. しかし、抵当権者は抵当不動産の使用収益権を有さず、妨害排除により取得する占有も管理目的であって利益享受を目的としない。したがって、占有により賃料相当額の「損害」を被ったとはいえない。
結論
1. 抵当権に基づく妨害排除請求として、直接自己への建物の明渡し請求は認められる。 2. 抵当権侵害による不法行為に基づく賃料相当損害金の支払請求は認められない。
実務上の射程
抵当権に基づく妨害排除請求のリーディングケースである。特に「占有権原がある場合」でも、不当な目的(競売妨害目的)があれば排除可能である点、および「直接自己への明渡し」を認める要件(維持管理の期待可能性の欠如)を示した点が重要。一方、不法行為(損害賠償)の成否については、抵当権の本質が価値把握権に留まることから否定的な結論を導く際に活用する。
事件番号: 昭和28(オ)812 / 裁判年月日: 昭和29年9月24日 / 結論: 棄却
建物の賃借人が、賃貸人たる建物所有者に代位して、建物の不法占拠者に対しその明渡を請求する場合には、直接自己に対して明渡をなすべきことを請求することができる。