一 第三者が抵当不動産を不法占有することにより、競売手続の進行が害され適正な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、抵当不動産の所有者に対して有する右状態を是正し抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を保全するため、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができる。 二 建物を目的とする抵当権を有する者がその実行としての競売を申し立てたが、第三者が建物を権原なく占有していたことにより、買受けを希望する者が買受け申出をちゅうちょしたために入札がなく、その後競売手続は進行しなくなって、建物の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となる状態が生じているなど判示の事情の下においては、抵当権者は、建物の所有者に対して有する右状態を是正するよう求める請求権を保全するため、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使し、所有者のために建物を管理することを目的として、不法占有者に対し、直接抵当権者に建物を明け渡すよう求めることができる。 (一、二につき補足意見がある。)
一 抵当権者が抵当不動産の所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することの可否 二 抵当権者が権利の目的である建物の所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使して直接抵当権者に建物を明け渡すよう求めることができるとされた事例
民法369条,民法423条
判旨
第三者の不法占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ優先弁済請求権の行使が困難な場合、抵当権者は所有者の妨害排除請求権を代位行使できる。この際、所有者による管理が期待できない等の事情があれば、直接自己への明渡しを請求することも可能である。
問題の所在(論点)
抵当不動産の不法占有者に対し、抵当権者が所有者の妨害排除請求権を代位行使(民法423条)して、直接自己への明渡しを求めることができるか。
規範
1. 抵当権は、抵当不動産の交換価値を支配する権利であり、不法占有により交換価値の実現が妨げられ優先弁済請求権の行使が困難となる状態は抵当権侵害にあたる。 2. 抵当不動産の所有者は適切に維持管理すべき義務を負い、抵当権者は所有者に対し「担保価値維持請求権」を有する。 3. 当該請求権を保全する必要があるときは、民法423条の法意に従い、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使できる。 4. 所有者が受領を拒む、あるいは所有者による管理が期待できない事情があるときは、所有者のために管理することを目的(管理占有)として、直接自己への明渡しを請求できる。
重要事実
抵当権者(被上告人)は、債務者Eの所有物件に根抵当権を設定し貸し付けた。その後、不法占有者(上告人ら)が当該物件を占拠したため、抵当権実行としての競売手続において買受け希望者がちゅうちょし、入札がない状態となった。被上告人は、Eの所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使し、直接自己への建物の明渡しを求めて提訴した。
あてはめ
本件では、上告人らが正当な権原なく建物を占有し、競売手続を阻害しているため、不動産の交換価値の実現が妨げられ、被上告人の優先弁済請求権の行使が困難になっている。被上告人は所有者Eに対し担保価値を維持するよう求める請求権を有しており、これを保全するためEの妨害排除請求権を代位行使する必要性が認められる。また、Eによる適切な管理が期待できない状況下では、管理占有を目的として被上告人が直接明渡しを受けることが是認される。
結論
抵当権者は、所有者の代位行使として、直接自己への建物の明渡しを請求することができる。
実務上の射程
抵当権に基づく妨害排除請求権の直接行使(物権的請求権)と、本判決が示した債権者代位権による行使は、実務上重畳的に主張され得る。特に、本判決は抵当権設定者(所有者)に対する「担保価値維持請求権」を被保全債権として認めた点に特徴があり、占有者が債務者・設定者と通じている場合などの実効的な排除手段として機能する。
事件番号: 昭和28(オ)812 / 裁判年月日: 昭和29年9月24日 / 結論: 棄却
建物の賃借人が、賃貸人たる建物所有者に代位して、建物の不法占拠者に対しその明渡を請求する場合には、直接自己に対して明渡をなすべきことを請求することができる。