1 行政事件訴訟法12条3項にいう「事案の処理に当たつた下級行政機関」とは,当該処分又は裁決に関し事案の処理そのものに実質的に関与した下級行政機関をいう。 2 国民年金法による障害基礎年金と地方公務員等共済組合法による退職共済年金の併給を受けていた者が,和歌山県知事の補助機関である和歌山東社会保険事務所の担当者に対し,国民年金法による老齢基礎年金の裁定請求書を提出したところ,同担当者が,法令上障害基礎年金と退職共済年金の併給は不可能である旨を指摘し,年金受給選択の申出をするよう促して年金受給選択申出書等を提出させ,年金受給選択に係る意思を確認した上でこれを受理し,和歌山県知事において特段の処分意見を付すことなく上記申出書等を社会保険庁長官に進達し,これを受けた社会保険庁長官において上記申出書等に依拠して障害基礎年金を過去にさかのぼって支給停止する旨の処分及び同年金の過誤払に係る額を老齢基礎年金の内払とみなす旨の処分をしたなど判示の事実関係の下においては,和歌山県知事は,社会保険庁長官の下級行政機関として上記各処分に関し事案の処理そのものに実質的に関与したと評価することができ,行政事件訴訟法12条3項にいう「事案の処理に当たつた下級行政機関」に該当する。
1 行政事件訴訟法12条3項にいう「事案の処理に当たつた下級行政機関」の意義 2 社会保険庁長官がした国民年金法による障害基礎年金の支給停止処分等につき和歌山県知事が行政事件訴訟法12条3項にいう「事案の処理に当たつた下級行政機関」に該当するとされた事例
行政事件訴訟法12条3項,国民年金法20条1項,国民年金法20条2項,国民年金法21条1項
判旨
行政事件訴訟法12条3項にいう「事案の処理に当たつた下級行政機関」とは、当該処分に関し事案の処理そのものに実質的に関与した下級行政機関をいう。その判断は、処分の性質や関与の具体的態様、影響度等を総合考慮すべきであり、処分の前提となる不可欠な事務を積極的に処理した場合には、これに該当する。
問題の所在(論点)
行政事件訴訟法12条3項に規定される「事案の処理に当たつた下級行政機関」の意義、および国民年金の支給停止等の処分において、受給選択の指導・受理等を行った都道府県知事がこれに該当するか。
規範
行政事件訴訟法12条3項にいう「事案の処理に当たつた下級行政機関」とは、処分に関し事案の処理そのものに実質的に関与した下級行政機関をいう。実質的関与の有無は、処分の内容・性質に照らし、当該機関の関与の具体的態様、程度、処分に対する影響の度合い等を総合考慮して決すべきである。単なる資料収集の補助や形式審査・進達にとどまる場合は原則として含まれないが、処分庁への意見具申がある場合や、意見具申がなくとも処分要件が一義的に明確な事案で積極的な調査・事務処理を行った場合などには、実質的関与が認められ得る。
事件番号: 平成26(行フ)2 / 裁判年月日: 平成26年9月25日 / 結論: 破棄差戻
1 処分行政庁を補助して処分に関わる事務を行った組織は,それが行政組織法上の行政機関ではなく,法令に基づき処分行政庁の監督の下で所定の事務を行う特殊法人等又はその下部組織であっても,法令に基づき当該特殊法人等が委任又は委託を受けた当該処分に関わる事務につき処分行政庁を補助してこれを行う機関であるといえる場合において,当…
重要事実
和歌山県在住の受給権者(相手方)に対し、社会保険庁長官(抗告人)が障害基礎年金の支給停止処分および内払調整処分を行った。相手方は、処分の無効等を求めて和歌山地裁に提訴したが、抗告人らは東京地裁への移送を申し立てた。本件では、処分の前提となる年金受給選択申出書の受理にあたり、和歌山県知事の補助機関である社会保険事務所が、併給不可の指摘、受給選択の指導、意思表示の確認、データの入力等を積極的に行い、それら資料を長官に進達していた。
あてはめ
国民年金法等の仕組みにおいて、年金受給選択の意思表示は併給調整処分の不可欠な前提であり、紛争の核心をなす。和歌山県知事は、単なる進達にとどまらず、受給権者に対し指導・助言を行い、選択の意思を確認した上で書類を受理するという、処分の成立に密接に関連する事務を積極的に処理している。また、処分庁である社会保険庁長官は、同知事から進達された資料に多くを依拠して事実確認を行っており、処分の要件該当性の判断も一義的に明確な事案であった。そうであれば、和歌山県知事による一連の事務処理こそが事案の処理の核心的部分といえる。
結論
和歌山県知事は「事案の処理に当たつた下級行政機関」に該当するため、その所在地を管轄する和歌山地方裁判所にも管轄権が認められる。したがって、移送の申立てを却下した原審の判断は正当である。
実務上の射程
取消訴訟の管轄(行訴法12条)に関する重要判例である。土地管轄が争点となる事案で、被告(国)の所在地以外の裁判所へ出訴する際の根拠として用いる。規範定立の際は、原告の便宜や証拠調べの便宜という趣旨に遡って論証し、「実質的関与」の有無を事案の性質に即して具体的に検討する。
事件番号: 平成14(行フ)10 / 裁判年月日: 平成15年3月14日 / 結論: 棄却
1 行政事件訴訟法12条3項にいう「下級行政機関」は,当該処分又は裁決を行った行政庁の指揮監督下にある行政機関に限られない。 2 総務庁恩給局長が,現地召集解除以後の残留期間も旧軍人普通恩給算定上恩給基礎在職年に算入すべきことを理由とする旧軍人普通恩給の改定請求を却下する旨の処分をした場合において,改定請求書等の提出を…
事件番号: 平成1(行ト)2 / 裁判年月日: 平成元年6月8日 / 結論: 棄却
行政庁を被告とする取消訴訟の管轄を定めた行政事件訴訟法一二条の規定は、憲法三二条に違反しない。
事件番号: 平成20(許)21 / 裁判年月日: 平成20年7月18日 / 結論: 破棄自判
地方裁判所にその管轄区域内の簡易裁判所の管轄に属する訴訟が提起され,被告から同簡易裁判所への移送の申立てがあった場合において,同申立てを却下する旨の判断は,民訴法16条2項の規定の趣旨にかんがみ,広く当該事件の事案の内容に照らして地方裁判所における審理及び裁判が相当であるかどうかという観点からされるべきであり,地方裁判…
事件番号: 平成23(許)4 / 裁判年月日: 平成23年5月18日 / 結論: 破棄自判
民訴法38条後段の要件を満たす共同訴訟であって,いずれの共同訴訟人に係る部分も受訴裁判所が土地管轄権を有しているものについて,同法7条ただし書により同法9条の適用が排除されることはない。