1 生命保険契約に係る保険約款中の被保険者の死亡の日の翌日を死亡保険金請求権の消滅時効の起算点とする旨の定めは,当時の客観的状況等に照らし,上記死亡の時からの保険金請求権の行使が現実に期待することができないような特段の事情が存する場合には,その権利行使が現実に期待することができるようになった時以降において上記消滅時効が進行する趣旨と解すべきである。 2 生命保険契約に係る保険約款が被保険者の死亡の日の翌日を死亡保険金請求権の消滅時効の起算点とする旨を定めている場合であっても,被保険者が自動車を運転して外出したまま帰宅せず,その行方,消息については何の手掛かりもなく,その生死も不明であったが,行方不明になってから3年以上経過してから,峠の展望台の下方約120mの雑木林の中で,自動車と共に白骨化した遺体となって発見されたなど判示の事実関係の下では,上記消滅時効は,被保険者の遺体が発見されるまでの間は進行しない。
1 生命保険契約において被保険者の死亡の日の翌日を死亡保険金請求権の消滅時効の起算点とする旨を定めている保険約款の解釈 2 生命保険契約に係る保険約款が被保険者の死亡の日の翌日を死亡保険金請求権の消滅時効の起算点とする旨を定めている場合であっても上記消滅時効は被保険者の遺体が発見されるまでの間は進行しないとされた事例
商法663条,商法683条1項, 民法91条,民法166条1項
判旨
保険金請求権の消滅時効は、約款上「死亡の翌日」を起算点と定めていても、客観的状況から権利行使が現実的に期待できない特段の事情がある場合には、行使が期待できるようになった時から進行する。
問題の所在(論点)
保険金請求権の消滅時効において、被保険者の行方不明により死亡の事実が長期間判明しなかった場合、約款の規定にかかわらず時効の起算点を遅らせることができるか。
規範
消滅時効の起算点(民法166条1項)である「権利を行使することができる時」とは、単に法律上の障害がないだけでなく、権利の性質上、権利行使が現実に期待できるようになった時を指す。保険契約において、支払事由の発生から権利行使が現実的に期待できないような特段の事情がある場合には、その事情が解消され、権利行使が現実に期待できるようになった時から消滅時効が進行する。
重要事実
被保険者乙は平成4年5月に行方不明となり、受取人である被上告人は捜索願を出したが消息不明であった。約3年半後の平成8年1月、乙の自動車と白骨化した遺体が発見され、死亡時期は不明時と推認された。約款には「支払事由(死亡)が生じた日の翌日から3年」で時効消滅する旨の定めがあった。保険会社(上告人)は、推定死亡時から3年以上経過しているとして時効を主張した。
あてはめ
本件では、乙の行方不明から遺体発見までの間、警察に捜索願を出すなどしても生死が全く不明であった。このような客観的状況に照らせば、約款所定の支払事由(死亡)が発生した時から遺体発見時までは、権利行使が現実に期待できない特段の事情があったといえる。したがって、乙の死亡が確認され、権利行使が現実的に期待できるようになった平成8年1月7日以降に初めて時効が進行を開始すると評価すべきである。
結論
被上告人が平成8年11月に提訴した時点で、消滅時効は完成していない。上告人の時効主張は認められない。
実務上の射程
消滅時効の起算点について「事実上の障害」を考慮して判断した重要な判例である。答案では、約款の文言どおりに適用すると受取人に酷な結果となる事案(遭難や孤独死等)において、民法166条1項の解釈として「特段の事情」を論証する際に活用すべきである。
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