労働組合と使用者との間の労働条件その他に関する合意は,書面に作成され,かつ,両当事者がこれに署名し又は記名押印しない限り,労働協約としての規範的効力を生じない。
労働組合と使用者との間の労働条件その他に関する合意で書面の作成がなく又は作成した書面に両当事者の署名及び記名押印がないものの労働協約としての規範的効力
労働組合法14条,労働組合法16条
判旨
労働組合法14条の署名又は記名押印のある書面作成は、労働協約の成立・効力発生の厳格な要件であり、これらを備えない合意に規範的効力を付与することはできない。また、ベースアップの額で合意していても、協定書の記載内容という重要事項が未妥結で書面が作成されない場合、遡及的な支給義務も認められない。
問題の所在(論点)
労働組合法14条所定の書面作成・署名押印を欠く労使合意について、同条を理由に支給を拒むことが信義則に反する場合に、労働協約としての規範的効力(同法16条)が認められるか。また、書面がない場合に遡及的な支給義務の合意が認められるか。
規範
労働組合法14条が労働協約に書面作成及び署名又は記名押印を要求しているのは、労働協約が労働契約を規律し一般的拘束力を持つ等の強い法的効力を有することから、その存在及び内容を明確にして不必要な紛争を防止する必要があるためである。したがって、同条所定の様式を備えない限り、労使間で労働条件に関する合意が成立しても労働協約としての規範的効力は生じない。また、書面作成がなされない以上、信義則を理由に規範的効力の具備を認めることもできない。
重要事実
タクシー教習所の従業員らが所属する労働組合(支部)と会社は、平成3年から7年のベースアップ額について合意(本件各合意)したが、会社が提示した協定書案には新賃金体系を前提とする記載があった。支部は新賃金体系に反対していたため、当該記載を含む協定書への署名捺印を拒否し、書面が作成されなかった。会社は書面がないことを理由に支部組合員へのベースアップ分を支給しなかったため、従業員らが未払賃金を請求した。
事件番号: 平成7(オ)947 / 裁判年月日: 平成11年7月19日 / 結論: 破棄自判
平成元年四月一日の消費税法の適用の際に消費税を転嫁するための運賃変更の認可申請をせず、その後も同業他社と同様の運賃変更の認可申請をしなかったため、同業他社の運賃との間に一四・二パーセントの格差が生じていた一般乗用旅客自動車運送事業者が、平成三年三月二九日、道路運送法九条一項に基づき、消費税転嫁分として三パーセントの値上…
あてはめ
本件各合意については、労使間で協定書が作成されていない以上、労組法14条の効力発生要件を満たさないことは明らかである。仮に会社が書面未作成を理由に支給を拒むことが信義に反するとしても、直ちに規範的効力が発生すると解することはできない。また、ベースアップの実施は書面作成を前提としていたといえる。協定書に新賃金体系の基準額を記載するか否かは労使双方にとって重要な意義を持つ交渉事項であり、この点について妥結せず書面が作成されなかった以上、ベースアップの実施は頓挫したものというべきであって、交渉事項と切り離して支給義務のみが先行して合意されたとは認められない。
結論
本件各合意には労働協約としての規範的効力は認められず、また遡及的な支給義務の合意も認められないため、従業員らの主位的請求(未払賃金請求)は棄却される。
実務上の射程
労働協約の成立要件(労組法14条)の厳格性を確認した判例である。実務上、合意内容が実質的に固まっていても、形式的要件を欠く限り規範的効力を主張することは極めて困難である。答案上は、14条が「効力要件」であることを明示した上で、事実認定として「書面作成を前提とした合意か否か」を検討する際の指標となる。
事件番号: 昭和41(オ)1032 / 裁判年月日: 昭和42年3月3日 / 結論: 破棄差戻
第一審における口頭弁論の結果の陳述がないままされた第二審判決には、民訴法第三九五条第一項第一号所定の違法がある。