一 請負工事に用いられた動産の売主は、原則として、請負人が注文者に対して有する請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができないが、請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負契約における請負人の債務の内容等に照らして請負代金債権の全部又は一部を右動産の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情がある場合には、右部分の請負代金債権に対して右物上代位権を行使することができる。 二 甲から機械の設置工事を請け負った乙が右機械を代金一五七五万円で丙から買い受け、丙が乙の指示に基づいて右機械を甲に引き渡し、甲が乙に支払うべき二〇八〇万円の請負代金のうち一七四〇万円は右機械の代金に相当するなど判示の事実関係の下においては、乙の甲に対する一七四〇万円の請負代金債権につき右機械の転売による代金債権と同視するに足りる特段の事情があるということができ、丙は、動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができる。
一 請負工事に用いられた動産の売主が請負代金債権に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することの可否 二 請負工事に用いられた動産の売主が請負代金債権の一部に対して動産売買の先取特権に基づく物上代位権を行使することができるとされた事例
民法304条,民法322条,民法632条
判旨
動産売買の先取特権者は、原則として請負代金債権に物上代位できないが、当該債権が転売代金と同視できる特段の事情がある場合に限り、物上代位権を行使できる。
問題の所在(論点)
動産売買の先取特権(民法311条5号、321条)に基づき、目的物が組み込まれた請負工事の対価である「請負代金債権」に対して物上代位権を行使できるか。請負代金債権が「売却……によって債務者が受けるべき金銭」(同法304条1項)に含まれるかが問題となる。
規範
動産の買主がこれを用いて請負工事を行った場合の請負代金債権は、材料・労力等の対価を包含するため、原則として物上代位(民法304条1項)の対象とならない。しかし、請負代金全体に占める当該動産の価額の割合や請負人の債務内容等に照らし、請負代金債権の全部または一部を当該動産の転売代金債権と「同視するに足りる特段の事情」がある場合には、例外的にその部分に対し物上代位権を行使できる。
事件番号: 平成10(許)2 / 裁判年月日: 平成11年5月17日 / 結論: 棄却
一 銀行甲が、輸入業者乙のする商品の輸入について信用状を発行し、約束手形の振出しを受ける方法により乙に輸入代金決済資金相当額を貸し付けるとともに、乙から右約束手形金債権の担保として輸入商品に譲渡担保権の設定を受けた上、乙に右商品の貸渡しを行ってその処分権限を与えたところ、乙が、右商品を第三者に転売した後、破産の申立てを…
重要事実
請負人Dは、注文者Eからターボコンプレッサーの設置工事を2080万円で請け負った。Dは当該工事履行のため、売主(相手方)から同機械を1575万円で購入し、相手方はDの指示で直接Eへ引き渡した。見積書によれば請負代金2080万円のうち1740万円が機械代金相当であった。その後、第三債務者Eが仮差押に伴い1575万円を供託したため、売主が当該供託金還付請求権に対し物上代位を主張した。
あてはめ
本件では、請負代金2080万円のうち約8割以上に当たる1740万円が機械自体の代金であり、請負人の主要な債務は当該機械の納入にあるといえる。このような価額の比率および契約内容に照らせば、請負代金債権のうち機械代金相当部分は、実質的に機械の転売代金債権と同視することができる。したがって、供託された1575万円(機械購入代金と同額)の範囲内であれば、「特段の事情」が認められる。
結論
本件請負代金債権(または供託金還付請求権)は転売代金と同視できる特段の事情があるため、売主は動産売買の先取特権に基づき物上代位権を行使できる。
実務上の射程
動産が加工・付合された場合の物上代位の可否に関するリーディングケースである。答案上は、原則否定・例外肯定の枠組みを明示した上で、「価額の割合」と「債務の内容(仕事の性質)」の2点から転売との同視可能性を検討する。単なる修繕や軽微な取付工事では否定されやすく、本件のような高額機械の納入が主目的である場合に肯定されやすい。
事件番号: 平成11(許)23 / 裁判年月日: 平成12年4月14日 / 結論: 破棄差戻
抵当権者は、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合を除き、右賃借人が取得する転貸賃料債権について物上代位権を行使することができない。
事件番号: 平成18(許)13 / 裁判年月日: 平成18年9月11日 / 結論: 棄却
強制執行を受けた債務者が,その請求債権につき強制執行を行う権利の放棄又は不執行の合意があったことを主張して裁判所に強制執行の排除を求める場合には,執行抗告又は執行異議の方法によることはできず,請求異議の訴えによるべきである。
事件番号: 平成22(許)14 / 裁判年月日: 平成22年12月2日 / 結論: 棄却
構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権の効力は,譲渡担保の目的である集合動産を構成するに至った動産が滅失した場合にその損害をてん補するために譲渡担保権設定者に対して支払われる損害保険金に係る請求権に及ぶ。
事件番号: 平成28(許)46 / 裁判年月日: 平成29年10月10日 / 結論: 破棄自判
債権差押命令の申立書に請求債権中の遅延損害金につき申立日までの確定金額を記載させる執行裁判所の取扱いに従って債権差押命令の申立てをした債権者が当該債権差押命令に基づく差押債権の取立てとして第三債務者から金員の支払を受けた場合,申立日の翌日以降の遅延損害金も上記金員の充当の対象となる。