特許に無効理由が存在することが明らかであるときは、その特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されない。
無効理由が存在することが明らかな特許権に基づく差止め等の請求と権利の濫用
特許法68条・特許法第4章第2節 権利侵害・特許法100条・特許法123条 民法1条3項
判旨
特許に無効理由が存在することが明らかであり、無効審決により無効とされることが確実に予見される場合には、当該特許権に基づく差止めや損害賠償等の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用として許されない。
問題の所在(論点)
特許に無効理由が存在することが明らかな場合、無効審決の確定前であっても、裁判所は特許権の行使を制限することができるか。特許の有効性を争う「無効の抗弁」の可否が問題となる。
規範
特許法上、特許は無効審決の確定まで対世的には有効なものとして存続する。しかし、特許に無効理由が存在することが明らかであり、無効とされることが確実に予見される場合、その権利行使を認めることは衡平の理念に反し、不当な利益・不利益を招く。また、紛争の一回的解決や訴訟経済の観点からも、特許庁の審判を待たずに裁判所が判断することが望ましい。したがって、当該特許に無効理由が存在することが明らかであるときは、特段の事情がない限り、特許権に基づく権利行使は権利の濫用(民法1条3項)に当たり、許されない。
重要事実
上告人は、発明の名称を「半導体装置」とする特許権を有していた。本件特許は、原出願から分割出願されたものであるが、原出願については公知発明に基づく容易改変を理由に拒絶査定が確定していた。本件発明と原発明は実質的に同一であり、本件出願は先願(特許法39条1項)や進歩性(29条2項)の欠如により、無効理由があることが明白な状態であった。被上告人は、上告人による本件特許権に基づく侵害主張に対し、損害賠償請求権の不存在確認を求めて提訴した。
あてはめ
本件発明は、拒絶査定が確定した原発明と実質的に同一であり、特許法39条1項の先願規定や29条2項の進歩性規定に違反している。したがって、本件特許には無効理由が存在することが明らかであり、無効審理がなされれば無効とされることが確実に予見される状況にある。また、訂正審判の請求がされているなどの特段の事情も認められない。このような状況下で特許権を行使することは、実質的に特許権者に不当な利益を与え、実施者に不当な不利益を強いるものであり、衡平に反する。
結論
本件特許には無効理由が存在することが明らかであるから、本件特許権に基づく損害賠償請求は権利の濫用に当たり許されない。よって、被上告人の不存在確認請求は認められる。
実務上の射程
本判決(キルビー事件)は、特許権侵害訴訟において裁判所が特許の有効性を判断できる道を開いた画期的判例である。現在は特許法104条の3として明文化されており、実務上は「無効の抗弁」として、無効理由が「明らか」であるか否かを問わず、特許を無効にすべきものと認められるときは権利行使が制限される。答案上は、104条の3の趣旨(訴訟経済・衡平)を論じる際に本判決の法理を引用する。
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