一 合名会社の業務が一応困難なく行われているとしても、その執行が多数派社員によつて不公正かつ利己的に行われ、少数派社員が恒常的な不利益を被つている場合には、かかる状態を打開する公正かつ相当な手段のない限り、会社の解散につき商法一一二条一項にいう「已ムコトヲ得ザル事由」があるものと解すべきである。 二 合名会社の業務の執行が多数派社員によつて不公正かつ利己的に行われ、少数派社員が恒常的な不利益を被つている状態において、少数派社員のうち甲が会社の解散を請求した場合には、甲以外の少数派社員が全員退社したため、甲が退社しさえすれば社員間の対立が解消されるとしても、会社の資産状況等からみて退社により取得すべき持分払戻請求権の実現に多大の困難を伴い長年月を要すると認められ、しかも、甲には右の状態に至つたことにつき帰責事由がないなど判示の事情があるときは、甲の退社は、右の状態を打開する公正かつ相当な手段であるとはいえない。
一 合名会社の業務の執行が多数派社員によつて不公正かつ利己的に行われ少数派社員が恒常的な不利益を被つている場合と会社の解散についての商法一一二条一項にいう「已ムコトヲ得ザル事由」 二 合名会社の業務の執行が多数派社員によつて不公正かつ利己的に行われ少数派社員が恒常的な不利益を被つている状態において会社の解散を請求した少数派社員の退社が右の状態を打開する公正かつ相当な手段とはいえないとされた事例
商法112条1項
判旨
持分会社における「已ムコトヲ得ザル事由」による解散(商法112条1項、現行会社法833条2項)は、社員間の信頼関係破壊により業務執行が困難な場合だけでなく、多数派による不公正な業務執行により少数派が恒常的な不利益を被り、他に公正かつ相当な打開手段がない場合にも認められる。
問題の所在(論点)
多数派社員による不公正な業務執行により少数派社員が不利益を受けている状況が、会社法上の「やむを得ない事由」による解散請求事由に該当するか。また、少数派社員による「退社・持分払戻請求」という選択肢がある場合でも、解散請求は認められるか。
規範
「已ムコトヲ得ザル事由」とは、①感情的な不和対立により業務執行が困難となり、会社・総社員に回復し難い損害が生じている場合のみならず、②多数派社員による不公正・利己的な業務執行の結果、少数派社員がいわれのない恒常的な不利益を被っている場合をも含む。ただし、いずれの場合も「これを打開する手段のない限り」認められる。ここでいう打開手段は、対立の原因や各社員の帰責性、不利益の程度等を考慮し、双方にとって「公正かつ相当な手段」であることを要する。
重要事実
合資会社(後に合名会社)である上告会社は、製糸業者である社員6名で発足した。戦後、社員3名(多数派)は製糸業を継続したが、被上告人を含む3名(少数派)は廃業した。多数派は、別会社を設立して上告会社の不動産を格安で賃借させ、利益の大部分を享受する一方、少数派には名目的な配当のみを行い、事実上の休業状態に置いた。被上告人は様々な改善案を提示したが拒絶され、他の少数派社員は退社して持分払戻を請求したが、会社には払戻財源がなく実現は困難な状況であった。被上告人は会社の解散を請求した。
あてはめ
上告会社では、多数派による不公正・利己的な業務執行により少数派に恒常的な不利益が生じており、解散事由の基本的状況にある。打开手段としての「退社」の可否について検討するに、会社には持分払戻の財源がなく、実現には不動産売却を要するなど多大な困難と年月が予想される。また、対立の原因は専ら多数派の不公正な行為にあり、特段の帰責事由がない被上告人に対し、意思に反する退社と実現困難な持分払戻請求を強いることは、双方にとって「公正かつ相当な手段」とはいえない。したがって、他に打開手段はないといえる。
結論
本件には「已ムコトヲ得ザル事由」が認められるため、解散請求は認容されるべきである。
実務上の射程
人的会社(持分会社)におけるデッドロック状態だけでなく、多数派による「少数派締め出し(フリーズ・アウト)」のような不公正な運営に対する救済手段として解散請求が機能することを示した。答案上は、退社や持分譲渡といった他の解決策が「公正かつ相当」といえるかを検討する際のメルクマールとして、会社の支払能力や対立の原因(帰責性)を論じる際に活用すべきである。
事件番号: 昭和47(オ)1225 / 裁判年月日: 昭和49年9月26日 / 結論: 棄却
取締役と会社との取引が株主全員の合意によつてされた場合には、右取引につき取締役会の承認を要しない。
事件番号: 昭和38(オ)224 / 裁判年月日: 昭和40年11月11日 / 結論: 破棄差戻
合資会社の社員数名が同時退社の申出をした場合には、各退社申出者ごとに、その者を除く他のすべての社員の同意がなければ、総社員の同意があつたとはいえない。
事件番号: 昭和42(オ)1466 / 裁判年月日: 昭和45年7月15日 / 結論: 破棄差戻
有限会社社員の提起した会社解散の訴、社員総会決議取消の訴および同無効確認の訴の係属中右社員が死亡した場合には、相続により持分を取得した相続人がその訴訟の原告たる地位を承継する。
事件番号: 昭和58(オ)1562 / 裁判年月日: 昭和62年1月22日 / 結論: 棄却
合資会社の社員の金銭出資義務の履行期につき定款又は総社員の同意による定めがない場合において、出資義務の履行請求前に社員が退社したときは、右社員の会社に対する持分払戻請求権は成立しない。