生命保険契約において被保険者の「妻何某」とのみ表示してした保険金受取人の指定は、当該氏名をもつて特定された者を保険金受取人とする趣旨であり、それに付加されている「妻」という表示は、それだけでは、その者が被保険者の妻である限りにおいてこれを保険金受取人として指定する意思を表示した趣旨であると解することはできない。
生命保険契約において被保険者の「妻何某」とのみ表示してした保険金受取人の指定の趣旨
商法675条1項
判旨
保険金受取人の指定において「妻何某」と表示された場合、特段の事情がない限り、氏名により特定された個人を指定したものであり、離婚により妻の地位を失っても受取人の地位は喪失しない。
問題の所在(論点)
保険金受取人の指定に「妻何某」という表示がある場合において、被保険者と当該受取人の離婚が、受取人指定の効力に影響を及ぼすか。
規範
保険金受取人の指定は保険者に対する意思表示であり、その解釈は合理的かつ客観的になされるべきである。単に「妻何某」と表示されている場合、客観的には氏名による指定を主眼とし、「妻」の表示は受取人の特定を補助する意味にすぎない。したがって、将来の離婚の可能性に備えて「妻の身分を有する限りにおいて指定する」という趣旨を表示したものと解するには、他にその旨を窺知させるに足りる特段の表示が必要である。
重要事実
医師会の団体定期保険契約において、被保険者Dは受取人を「妻、E」と指定した。その後、Eの不貞行為が原因でDとEは離婚し、Eは他者と再婚した。しかし、Dは保険約款に定められた受取人の変更手続(保険者への書面通知)を行わないまま死亡した。Dの相続人(子)らは、離婚によってEは受取人の地位を失ったと主張して争った。
あてはめ
本件では受取人が「妻、E」と氏名を挙げて指定されており、EがDの妻であるという事実に加え、氏名によって個人が特定されている。離婚によりEが「妻」の地位を失い、Dが主観的にEの受取人資格喪失を期待していたとしても、客観的な表示から「妻の身分を条件とする指定」とは認められない。また、約款所定の変更手続も執られていない以上、客観的・合理的な意思表示の解釈として、指定の効力は維持されるといえる。
結論
Eは依然として保険金受取人としての地位を失わない。離婚という事実のみをもって、氏名により特定された受取人指定の効力が当然に消滅することはない。
実務上の射程
保険法上の受取人指定の解釈におけるリーディングケース。意思表示の客観的解釈を重視し、法的安定性の観点から「氏名による特定」を優先する。相続紛争において、離婚後の前妻が受取人のまま放置されているケースに広く射程が及ぶ。また、団体定期保険であっても一般の保険契約と同様の理が妥当することを示している。
事件番号: 平成2(オ)1100 / 裁判年月日: 平成5年9月7日 / 結論: 棄却
一 商法六七六条二項にいう「保険金額ヲ受取ルヘキ者ノ相続人」とは、保険契約者によって保険金受取人として指定された者の法定相続人又は順次の法定相続人であって被保険者の死亡時に生存する者をいう。 二 生命保険の指定受取人の法定相続人と順次の法定相続人とが保険金受取人として確定した場合には、各保険金受取人の権利の割合は、民法…
事件番号: 平成11(受)1136 / 裁判年月日: 平成14年11月5日 / 結論: 棄却
自己を被保険者とする生命保険契約の契約者が死亡保険金の受取人を変更する行為は,民法1031条に規定する遺贈又は贈与に当たるものではなく,これに準ずるものということもできない。