土地又は建物の賃借人は、賃借物に対する権利に基づき自己に対して明渡を請求することができる第三者からその明渡を求められた場合には、それ以後、賃料の支払を拒絶することができる。
賃借物につき第三者から明渡を求められた賃借人の賃料支払拒絶権
民法559条,民法576条,民法601条
判旨
不動産の賃借人は、真の権利者から明渡しを求められた場合、使用収益権原を主張できなくなるおそれが生じたものとして、民法559条、576条を準用し、以後賃料の支払を拒絶できる。
問題の所在(論点)
他人の物の賃貸借において、賃借人が真の権利者から明渡し請求を受けた場合、賃借人は民法559条・576条を準用して賃料の支払を拒絶できるか。
規範
所有権または賃貸権限を有しない者から不動産を借り受けた者は、当該不動産の真の権利者から権利を主張され、明渡しを求められた場合には、賃借不動産を使用収益する権原を主張することができなくなるおそれが生じたといえる。したがって、民法559条、576条を準用し、当該明渡し請求を受けた以後は、賃貸人に対して賃料の支払を拒絶することができる。
重要事実
賃貸権限を有しない上告人(賃貸人)から店舗を借り受けた被上告人(賃借人)に対し、当該店舗の真の権利者である第三者が明渡しを請求した。これを受けて、被上告人は上告人に対する賃料の支払を拒絶したため、賃料不払を理由とする契約解除等の可否が問題となった。
あてはめ
本件では、被上告人が賃貸権限のない上告人から店舗を借りていたところ、真の権利者から明渡し請求を受けている。この事態は、賃借人が契約通りの使用収益を継続できる保証が失われ、将来的に履行不能に陥る具体的かつ客観的な危険が生じたことを意味する。ゆえに、売買における権利の瑕疵による代金支払拒絶権を定めた民法576条の趣旨を賃貸借に準用し、対価である賃料の支払を拒絶して自らの利益を保護することが認められる。
結論
被上告人は、真の権利者から明渡し請求を受けた後の賃料について、その支払を拒絶することができる。
実務上の射程
他人の権利の賃貸借(民法559条・561条)における賃借人の抗辯として極めて重要である。答案上は、賃料不払を理由とする解除の有効性を検討する際、賃借人が真の権利者から請求を受けているという事実があれば、本判例を根拠に債務不履行の成立を否定する論理として活用する。なお、拒絶できる範囲は明渡し請求以後の賃料に限られる点に注意を要する。
事件番号: 昭和46(オ)1001 / 裁判年月日: 昭和48年2月2日 / 結論: 破棄差戻
建物の賃借権の譲渡を受けて現にこれを占有している者がある場合でも、判示のように、右賃借権が抵当不動産の担保価値を保全する目的をもつて抵当債務の不履行を停止条件として設定されたものであつて、任意に引渡がなされたものと認めるに足りない事情があるときは、右の者において賃借権の取得を第三者に対抗することはできない。