土地賃貸借が合意解除された当時、地上建物につき土地賃借人と合資会社との間に賃貸借が締結されていた場合においても、右会社は土地賃借人が従前同建物で経営していた事業を自己が代表者となつて会社組織にしたものにすぎず、かつ、右解除の際、土地賃借人が会社設立について言及しなかつたため土地賃貸人が右の事実を全く知らなかつたなど判示のような特別の事情があるときは、土地賃貸人は当該合意解除をもつて右会社に対抗することができる。
土地賃貸借の合意解除が地上建物の賃借人に対抗できるとされた事例
民法545条1項,民法601条
判旨
土地賃貸借の合意解除は、特段の事情がない限り建物賃借人に対抗できないが、建物賃借人が土地賃借人の経営する小規模な家族的会社であるなど、両者が実質的に同一視できる場合には、合意解除の効果を建物賃借人に対抗できる。
問題の所在(論点)
土地賃借人と建物賃借人が実質的に同一視できる関係にある場合において、土地賃貸借の合意解除の効果を建物賃借人に対抗できるか。民法545条1項但書の趣旨及び信義則上の「特別の事情」の成否が問題となる。
規範
土地賃貸人と賃借人との間における土地賃貸借契約の合意解除は、特段の事情のない限り、その効果を地上建物の賃借人に対抗することはできない。もっとも、土地賃借人と建物賃借人の関係、賃貸借契約の経緯、および合意解除に至る諸事情に照らし、合意解除をもって建物賃借人に対抗させることが相当と認められる「特別の事情」がある場合には、例外的に対抗することができる。
重要事実
土地賃貸人Xと賃借人Dは、本件土地の賃貸借につき、将来の建物収去・土地明渡しを内容とする調停(合意解除)を成立させた。一方、建物賃借人である上告会社は、Dが個人経営の事業を会社組織に改めた小規模な合資会社であり、Dはその代表者かつ無限責任社員であった。また、Dは調停当時、Xに対して会社設立の事実を伏せており、Xは上告会社の存在を全く知らなかった。
事件番号: 昭和36(オ)646 / 裁判年月日: 昭和38年4月23日 / 結論: 棄却
第三者が賃借土地の上に存する建物の所有権を取得した場合に、賃貸人が賃借権の譲渡を承諾しない間に賃貸借が賃料不払のため解除されたときは、借地法一〇条に基づく第三者の建物買取請求権はこれによつて消滅するものと解するのを相当とする。
あてはめ
本件では、上告会社はDが個人事業を法人化したものに過ぎず、従業員数や経営規模も個人時代と大差ない。Dは会社の代表者として本件土地を利用しており、Dと上告会社は実質的に同一といえる。さらに、Dは合意解除にあたって会社設立を秘匿しており、Xが上告会社の存在を知らなかった以上、Xに不測の損害を与えることは妥当ではない。したがって、合意解除を上告会社に対抗できる「特別の事情」が認められる。
結論
土地賃貸借の合意解除をもって建物賃借人に対抗できる。よって、建物の収去及び土地の明渡し請求は認められる。
実務上の射程
原則として合意解除は第三者(建物賃借人)に対抗できないとする判例(最判昭38.2.21等)の例外場面を画したものである。答案上は、建物賃借人が土地賃借人の「身代わり」に過ぎない場合や、背信性が高い場合に本判例を引用し、「特別の事情」があるとして結論を導く。法人格否認の法理に近い思考枠組みとして整理できる。
事件番号: 昭和45(オ)631 / 裁判年月日: 昭和47年3月7日 / 結論: 棄却
土地の賃貸人と賃借人との間において土地賃貸借契約が合意解約されたが、一方、土地の賃借人が同地上に所有する建物に設定した根抵当権が実行され、右建物が競落された場合において、右合意解約の原因がもつぱら賃借人の賃料不払にあり、また、右競落は、合意解約により右土地の賃借権が消滅したのちであつて、競落人は右賃借権消滅の事実を知悉…
事件番号: 昭和46(オ)846 / 裁判年月日: 昭和47年6月23日 / 結論: 棄却
土地の賃借人およびその経営する会社が他に営業の場所を有するに至つたときまたは爾後の営業の準備に通常要する期間を経過したときをもつて明渡期限と定めて、土地賃貸借が合意解約された場合において、賃貸人に対し賃借人がその所有の他の土地建物を買い受けてもらう必要から、判示のような経過で解約を承諾したものであるときは、右合意につき…
事件番号: 昭和46(オ)528 / 裁判年月日: 昭和48年9月7日 / 結論: 棄却
建物とともにその敷地の賃借権を譲り受けた者の有する借地法一〇条の建物買取請求権は、賃貸人が賃借人である譲渡人との間で賃貸借契約を合意解除しても、特段の事情がないかぎり、消滅しないものと解すべきである。
事件番号: 昭和48(オ)68 / 裁判年月日: 昭和48年10月12日 / 結論: 棄却
土地が適法に転貸され、転借人になんら非違もないのに、賃借人会社の代表者である賃貸入が、右転借権を消滅させるため、右会社の自己破産を申し立てて破産宣告をえ、これを理由に賃貸借契約を解除するようなことは、転借人に対し著しく信義則に反し、右解除により賃貸借契約が終了しても、転借権は消滅しない。