建物とともにその敷地の賃借権を譲り受けた者の有する借地法一〇条の建物買取請求権は、賃貸人が賃借人である譲渡人との間で賃貸借契約を合意解除しても、特段の事情がないかぎり、消滅しないものと解すべきである。
借地法一〇条の建物買取請求権と土地賃貸借の合意解除
民法545条1項,民法601条,借地法10条
判旨
賃借権譲渡につき賃貸人の承諾を得る前の合意解除は、特段の事情がない限り、建物譲受人の建物買取請求権を消滅させず、賃貸人はこの解除を譲受人に対抗できない。
問題の所在(論点)
賃借権の無断譲渡において、賃貸人と譲渡人(旧賃借人)との間でなされた賃貸借契約の合意解除は、建物譲受人の建物買取請求権を消滅させるか。
規範
建物所有を目的とする土地賃貸借において、賃借人が建物と共に賃借権を第三者に譲渡した場合、賃借権が存続している限り、譲受人は賃貸人に対し建物買取請求権(借地法10条、現借地借家法14条)を行使しうる地位にある。このとき、賃借権の譲渡につき賃貸人の承諾がない間に、賃貸人と譲渡人(従前の賃借人)との間で賃貸借契約を合意解除しても、民法398条(現398条は根抵当権だが、趣旨として当時の法理)や538条の法理、および信義誠実の原則に照らし、特段の事情がない限り、右合意解除を建物譲受人に対抗することはできず、買取請求権は消滅しない。
重要事実
土地賃借人である譲渡人が、その地上建物と共に土地賃借権を第三者(被上告人)に譲渡した。しかし、賃貸人(上告人)がその譲渡を承諾する前に、賃貸人と譲渡人の間で本件土地賃貸借契約を合意解除する旨の合意がなされた。賃貸人はこの合意解除を理由に、譲受人の建物買取請求権を否定した。
事件番号: 昭和48(オ)711 / 裁判年月日: 昭和48年11月22日 / 結論: 棄却
第三者が賃借土地の上に存する建物の所有権を取得した場合において、賃貸人が賃借権の譲渡を承諾しない間に賃貸借が賃料不払のため解除されたときは、借地法一〇条に基づく第三者の建物買取請求権は、これによつて消滅するものと解すべきであり、この理は、第三者が賃借人の賃料滞納の事実を知らず、かつ、知らないことについて過失がなかつた場…
あてはめ
建物譲受人は、賃貸人の承諾さえあれば適法に賃借権を取得しうる地位にあり、承諾がない段階でも建物買取請求権を行使しうる法的地位を有する。賃借人たる譲渡人が、賃貸人との合意によって賃借権を「ほしいままに」放棄することは、一たん生じた譲受人の買取請求権を不当に奪うものであり、信義則上許されない。本件においても、合意解除をもって譲受人に対抗することはできず、買取請求権の行使を妨げる事由とはならない。
結論
本件上告を棄却する。賃貸借の合意解除は建物譲受人に対抗できず、建物買取請求権は消滅しない。
実務上の射程
賃貸借終了後の建物買取請求権の可否を論じる際、終了原因が「合意解除」である場合に活用する。債務不履行解除の場合には本判例の射程は及ばず、買取請求権は認められないとするのが通説的判例(昭和33年4月8日判決等)であるため、事案の解除原因を精査して使い分ける必要がある。
事件番号: 昭和36(オ)646 / 裁判年月日: 昭和38年4月23日 / 結論: 棄却
第三者が賃借土地の上に存する建物の所有権を取得した場合に、賃貸人が賃借権の譲渡を承諾しない間に賃貸借が賃料不払のため解除されたときは、借地法一〇条に基づく第三者の建物買取請求権はこれによつて消滅するものと解するのを相当とする。
事件番号: 昭和48(オ)766 / 裁判年月日: 昭和49年4月26日 / 結論: 棄却
土地賃貸借が合意解除された当時、地上建物につき土地賃借人と合資会社との間に賃貸借が締結されていた場合においても、右会社は土地賃借人が従前同建物で経営していた事業を自己が代表者となつて会社組織にしたものにすぎず、かつ、右解除の際、土地賃借人が会社設立について言及しなかつたため土地賃貸人が右の事実を全く知らなかつたなど判示…
事件番号: 昭和33(オ)518 / 裁判年月日: 昭和35年9月20日 / 結論: 棄却
一 借地法第一〇条の建物買取請求権が行使された場合、土地賃貸人は、特段の事情がないかぎり、右買取請求権行使以前の期間につき賃料請求権を失うものではないけれども、これがため右期間中は建物取得者の敷地不法占有により賃料相当の損害を生じないとはいい得ない。 二 借地法第一〇条の建物買取請求権が行使された後、建物取得者は買取代…
事件番号: 昭和38(オ)604 / 裁判年月日: 昭和40年1月12日 / 結論: 棄却
無断転借人が建物を建築した場合には、右建物について買取請求権は生じない。