信用組合が職員に対して職員外の者に職員定期預金を利用させることを禁止しているのを知りながら職員外の者が右組合の営業部預金課員の勧誘により同人を通じて右定期預金をした場合でも、職員定期預金でなければ預金をしないことが明らかであつた等特段の事情のないかぎり、右預金契約は一般定期預金として有効に成立し、右預金の払戻に関する右職員の行為は、その限度において組合の事業の執行にあたると解すべきである。
信用組合の内規に反し職員外の者が職員を通じてした職員定期預金の払戻に関する右職員の行為と民法七一五条の事業の執行
民法666条,民法715条
判旨
職員以外の者が職員名義で職員定期預金を利用することが禁止されている場合でも、特段の事情がない限り、一般定期預金としての契約は有効に成立する。そのため、当該預金の払戻等に関する職員の不正行為は、使用者の「事業の執行について」なされたものとして、使用者責任(民法715条1項)が成立し得る。
問題の所在(論点)
民法715条1項の「事業の執行について」の成否。特に、組織内部で禁止されている形式(職員名義・職員預金)での預金契約がなされた場合、当該預金に関する職員の不正行為に使用者責任が成立するか。
規範
1. 職員以外の者が職員名義で行った職員定期預金契約は、職員定期預金としては無効であっても、特段の事情(職員定期預金でなければ預金契約をしないことが明らかであった等)がない限り、一般定期預金として有効に成立する。 2. 上記の預金に関する職員の金員受入れ・払戻等の行為は、一般定期預金の範囲で「事業の執行について」(民法715条1項)なされたものと認められる。
重要事実
上告人は、信用組合(被上告人)の職員Dを通じて、高利の職員定期預金を利用するため、Dの名義で預金を行った。被上告人組合は職員以外の利用を禁止していたが、上告人はこれを知りつつ預金していた。Dは満期を迎えた預金330万円を勝手に払い戻して他へ貸し付け、回収不能としたため、上告人に損害が生じた。原審は、上告人が禁止を知っていたことを理由に、Dの行為は業務執行性を欠くと判断した。
あてはめ
本件において、上告人と被上告人との間には、職員定期預金としては成立しないものの、特段の事情がない限り一般定期預金としての契約関係が有効に成立していると解される。したがって、Dによる預金の受入れや払戻しという行為は、有効な一般定期預金の処理という側面を持つ。そうであれば、Dが預金を無断で払い戻し私的に流用した行為は、客観的に見て被上告人の事業の執行の範囲内にあるといえる。上告人が禁止を知っていた事実は、直ちに業務執行性を否定するものではなく、過失相殺等の問題として処理されるべきである。
結論
Dの行為は事業の執行に含まれるため、特段の事情がない限り被上告人に使用者責任が成立する。原判決を破棄し、特段の事情の有無や過失相殺について審理させるため差し戻す。
実務上の射程
使用者責任における「事業の執行について」の判断において、取引の前提となる契約の一部(特利等)が禁止に抵触する場合でも、契約の核心部分(預金そのもの)が有効とみなされる限り、業務執行性を認めるのが判例の立場である。答案上は、まず基本契約の有効性を論じた上で、行為の客観的形状から職務範囲内にあることを論じる際の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和38(オ)621 / 裁判年月日: 昭和39年11月12日 / 結論: 棄却
甲銀行乙支店預金係長であつた丙が、他の支店に転出後、乙支店の支店長保管の押切印および預金係員の認印を盗用して預金通帳を作成交付することによつてなした不法行為であつて、右預金通帳を被害者たる組合の組合長に授受した経過が原判示のように乙支店の通常の預金業務とは外形上も著しく異るものである等原判決認定の事実関係(原判決理由参…