商法二四五条の三第三項による株式買取価格の決定は、非訟事件の裁判であつて、該事件を非訟事件手続法により審理裁判することは、憲法三二条、八二条に違反しない。
株式買取価格の決定と憲法三二条、八二条
憲法32条,憲法82条,商法245条ノ3,商法349条,非訟事件手続法132条ノ6
判旨
株式買取価格の決定は、過去の株価を確認するものではなく、裁判所が後見的立場から裁量により公正な価格を形成する非訟事件の裁判であり、憲法32条、82条に違反しない。
問題の所在(論点)
裁判所による株式買取価格の決定手続が、憲法32条および82条が保障する「訴訟事件」にあたるか、あるいは「非訟事件」にとどまるか。
規範
固有の司法権の作用に属する「訴訟事件」とは、当事者の意思にかかわらず終局的に事実を確定し、実体的権利義務の存否を確定することを目的とする裁判をいい、憲法82条の公開対審が要求される。対して、基本的な法律関係は変更せずに、裁判所が後見的立場から合目的の見地に立ち裁量権を行使して具体的内容を形成する裁判は「非訟事件」であり、これに憲法32条、82条の保障は及ばない。
重要事実
反対株主が商法245条ノ3第3項(当時)に基づき、会社に対して株式買取価格の決定を申し立てた事案。抗告人は、株式買取価格の決定は実体的権利義務を確定させる訴訟事件であるから、非訟事件手続法によって審理することは憲法32条(裁判を受ける権利)および82条(対審・判決の公開)に違反すると主張した。
事件番号: 平成26(許)39 / 裁判年月日: 平成27年3月26日 / 結論: 破棄自判
非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,非流動性ディスカウント(当該会社の株式には市場性がないことを理由とする減価)を行うことはできない。
あてはめ
株式買取請求権の行使により法律上当然に売買契約が成立するが、買取価格は具体的に定まるものではない。裁判所による決定は、客観的に定まっている過去の株価を確認するものではなく、新たに「公正な価格」を形成する性質を有する。法が価格決定の基準を規定せず裁判所の裁量に委ねていること、他の株主や債権者等の利害にも影響すること、株価変動への迅速な対応が必要なことから、裁判所の監督的・後見的役割が期待される。したがって、本件は裁判所が私人間紛争に介入し、裁量によって権利の具体的内容を形成する非訟事件に該当する。
結論
株式買取価格の決定は非訟事件の裁判であり、非訟事件手続法により審理することは、憲法32条および82条に違反しない。
実務上の射程
訴訟事件と非訟事件の区別(純粋非訟事件論)のリーディングケース。答案では、手続的保障の程度が問題となる場面で、対象となる手続が「権利の存否の確定」か「権利の具体的形成(裁量的判断)」かを区別する基準として用いる。
事件番号: 平成22(許)47 / 裁判年月日: 平成23年4月26日 / 結論: 破棄差戻
会社法782条1項所定の吸収合併等によりシナジー(組織再編による相乗効果)その他の企業価値の増加が生じない場合に,同項所定の消滅株式会社等の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」は,原則として,当該株式買取請求がされた日における,吸収合併契約等を承認する旨の株主総会の決議がされることがなければその株式が有したで…
事件番号: 令和4(許)8 / 裁判年月日: 令和5年5月24日 / 結論: 棄却
会社法144条2項に基づく譲渡制限株式の売買価格の決定の手続において裁判所が上記売買価格を定める場合に、上記譲渡制限株式の評価額の算定過程において上記譲渡制限株式に市場性がないことが考慮されていることはうかがわれないなど判示の事情の下においては、DCF法によって算定された上記評価額から非流動性ディスカウント(非上場会社…
事件番号: 昭和31(ク)148 / 裁判年月日: 昭和31年7月26日 / 結論: 棄却
非訟事件手続法第一三二条第二項の規定は憲法第三二条に違反しない。
事件番号: 昭和46(ク)419 / 裁判年月日: 昭和46年12月21日 / 結論: 棄却
強制競売における競落許可決定およびその抗告審の決定をなすにつき、口頭弁論または当事者の審尋を経ないでも、憲法三二条、八二条の規定に違反するものではない。