抵当不動産の第三取得者が、民法三九一条にもとづく優先償還請求権を有しているにもかかわらず、抵当不動産の競売代金が抵当権者に交付されたため優先償還を受けられなかつたときは、右第三取得者は、抵当権者に対し不当利得返還請求権を有する。
民法三九一条にもとづく優先償還をすることなく抵当権者に対してされた競売代金の交付と不当利得の成否
民法391条,民法703条,競売法33条2項
判旨
抵当不動産の第三取得者が有益費等を支出して優先償還請求権(民法391条)を有する場合、競売代金から優先償還を受けられず抵当権者がその分を配当受領したときは、第三取得者は抵当権者に対し、不当利得返還請求をすることができる。
問題の所在(論点)
抵当不動産の第三取得者が、民法391条に基づく優先償還を受けられなかった場合、その分を配当として受領した抵当権者に対し、民法703条に基づく不当利得返還請求をすることができるか。抵当権者の受領に「法律上の原因」がないといえるかが問題となる。
規範
1. 抵当不動産の第三取得者が支出した必要費・有益費は、不動産の価値の維持・増加に寄与する共益費的性質を有するため、民法391条に基づき抵当権者に優先して償還を受ける権利がある。 2. 抵当権者がこの優先償還金に相当する金員の交付を受けたとしても、第三取得者との関係ではこれを保有する実質的理由(法律上の原因)がない。 3. 抵当権者の債権が消滅し債務者が債務消滅の利益を得たという外形があっても、交付を受けた抵当権者の利得は否定されない。
重要事実
1. 上告人は、農地であった本件土地を買い受け、1200万円を支出して宅地に造成(有益費の支出)した。 2. 本件土地には前所有者の債務を担保する根抵当権が設定されており、被上告人(抵当権者)により競売が開始された。 3. 上告人は有益費の優先償還を求めて配当要求したが、期限後であったため交付表に計上されず、当該金額相当分が被上告人らに配当されることとなった。 4. 上告人は、被上告人が受領する配当金のうち、自らが優先償還を受けるべき金額について不当利得返還を請求した。
あてはめ
1. 上告人が支出した1200万円は宅地造成のための有益費であり、本件土地の価値を増加させたものであるから、民法391条により抵当権者に優先して償還されるべき性質のものである。 2. 競売手続上の不備(配当要求の遅延)により、本来上告人が受領すべき金員が被上告人に交付される場合、被上告人は実体法上の優先権を持つ上告人との関係において、その保有を正当化する実質的理由を欠く。 3. したがって、被上告人の受領は法律上の原因がなく、上告人の損失において利益を得たものといえる。
結論
抵当不動産の第三取得者は、優先償還を受けられなかった有益費相当額について、配当を受けた抵当権者に対し不当利得返還請求をすることができる。
実務上の射程
実務上、民法391条の優先権が配当手続で反映されなかった場合の実体的救済手段を認めたものである。答案上は、不当利得の「法律上の原因」の有無を判断する際、実体法上の権利の優劣(共益費的性質)を重視して実質的に判断する枠組みとして活用できる。
事件番号: 昭和41(オ)657 / 裁判年月日: 昭和43年6月27日 / 結論: 棄却
任意競売手続において配当異議訴訟が提起され、その確定判決に従つて配当がされた場合であつても、右訴訟の当事者は、相手方が債権または抵当権を有しないにもかかわらず右配当を受け、そのために自己が配当を受けられなかつたことを理由として、右相手方に対して不当利得の返還を求めることを妨げない。