控訴審における民事訴訟事件につき、依頼者と弁護士との間で、依頼者が受任者に無断で和解、取下等をしたときには、委任事務処理の程度いかんにかかわらず成功とみなして成功報酬の全額を支払う旨のいわゆるみなし成功報酬の特約がされ、依頼者において受任者に無断で右事件の相手方と裁判外の和解をして控訴を取り下げた場合であつても、受任者が、第一審においても右事件の処理を受任して訴訟を追行したが仮執行宣言付の敗訴判決を受け、みずからの手落もあつてその執行により依頼者を窮状におちいらせたこと、控訴審の結果に不安をいだいた依頼者から再三和解により事件の解決をはかるよう求められ、和解成立の機会もあつたのに、その依頼をかたくなに斥けてきたこと等判示のような事情があるときは、依頼者の右和解および控訴の取下は、受任者の責に帰すべき事由によるものとして、右みなし成功報酬の特約はその効力を生じない。
民事訴訟事件の依頼者と弁護士との間のいわゆるみなし成功報酬の特約がその効力を生じないとされた事例
民法643条,民法648条,弁護士法312条2項8号
判旨
弁護士報酬契約における「無断で和解・取下げをした場合に成功とみなして報酬を支払う」との特約は、和解等が受任者の責に帰すべき事由に基づく場合には、信義則上その効力を生じない。
問題の所在(論点)
依頼者が受任者の承諾なく和解・取下げを行った場合に成功報酬を請求できるとする「みなし成功報酬特約」について、弁護士側に和解拒絶等の義務違反がある場合でもその効力が認められるか(信義則による制限の可否)。
規範
弁護士報酬規定の趣旨及び委任関係における信義則に照らせば、依頼者による無断の和解・取下げ等が、受任者(弁護士)の責に帰すべき事由によるものであるときは、いわゆる「みなし成功報酬」の特約はその効力を生じないものと解すべきである。
重要事実
弁護士である上告人は、被上告会社らから訴訟を受任し、「承諾なく和解や取下げをした場合は成功とみなして報酬全額を支払う」旨の特約を締結した。第一審で敗訴した被上告会社らは、強制執行により工場操業停止等の窮状に陥り、控訴審で再三にわたり和解を依頼した。しかし、上告人は自身の主観的勝訴確信に固執し、和解成立の機会があったにもかかわらず努力を怠り、依頼をかたくなに拒絶した。そのため、被上告会社らは上告人を介さず無断で相手方と裁判外の和解をし、控訴を取り下げた。上告人が特約に基づき報酬を請求した事案である。
あてはめ
上告人は、第一審に関与し、自己の連絡ミスにより相手方の執行を許したことで依頼者が窮状にあることを認識すべき立場にあった。このような場合、受任者は自らの主観的確信に拘泥せず、依頼者のため早期に有利な和解を諮るよう努めるべき義務がある。それにもかかわらず、再三の依頼や和解の機会を拒絶し続けた上告人の対応は、受任者としての義務に反する。したがって、依頼者が無断で和解・取下げに至ったのは「受任者の責に帰すべき事由」によるものと評価される。
結論
本件のみなし成功報酬特約は、本件事実関係の下では効力を生じない。よって、上告人の報酬請求は認められない。
実務上の射程
不当な報酬請求を信義則(または条件成就の妨害の類推適用)で制限する枠組みとして重要。特約が文言上無限定であっても、弁護士の義務違反が先行する場合にはその効力を否定する。司法試験では、委任契約の報酬請求の可否や信義則の具体化として活用できる。
事件番号: 昭和26(オ)302 / 裁判年月日: 昭和29年2月23日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】条件の成就によって利益を受けるべき者が、相手方の妨害によってその条件の成就を妨げられたと主張して損害賠償を請求する場合、相手方が故意に条件の成就を妨げたという事実が認められない限り、当該請求は認められない。 第1 事案の概要:上告人(報酬請求権者)は、被上告人との間で特定の条件が成就した場合に報酬…