公正証書に関する請求異議訴訟において、債権者が応訴して債権の存在を主張した場合でも、右証書の作成嘱託についての代表権欠缺を理由に請求が認容され、その債権の存否が判断されなかつたときは、右債権につき、裁判上の請求に準ずる消滅時効中断の効力は生じない。
公正証書に関する請求異議訴訟における債権者の応訴が当該債権の消滅時効を中断しない場合
民法147条1号,民法149条
判旨
請求異議訴訟において、債権者が応訴して債権の存在を主張したが、執行証書の成立手続の瑕疵のみを理由に請求が認容され、債権の存否について実体判断がなされなかった場合、当該応訴は裁判上の請求に準ずる時効中断の効力を生じない。
問題の所在(論点)
債権者が請求異議訴訟に応訴して実体債権の存在を主張したものの、訴訟の結果、執行証書作成手続の瑕疵のみを理由として債務者の請求が認容され、債権の存否に関する実体判断がなされなかった場合、当該応訴に裁判上の請求に準ずる時効中断の効力が認められるか(旧民法147条1号の適用範囲)。
規範
請求異議訴訟における債権者の応訴が、民法147条1号(現147条1項1号)の「裁判上の請求」に準ずる時効中断の効力を生じるためには、当該訴訟において債権の存否について実体上の判断がなされることを要する。手続上の理由により債権者の主張が排斥され、債権の存否という実体関係が審理・判断されなかった場合には、時効中断の効力は認められない。
重要事実
債務者である被上告人が、公正証書に基づく債権(本件債権)の不在および公正証書作成嘱託の代表権欠如を理由に請求異議訴訟を提起した。これに対し、債権者である上告人は応訴し、本件債権の存在を主張して請求棄却を求めた。しかし、裁判所は公正証書作成嘱託における代表権欠如のみを認めて請求を認容し、本件債権の存否については判断しなかった。その後、被上告人が本件債権につき消滅時効を援用したため、上告人の応訴に時効中断の効力が認められるかが争点となった。
あてはめ
本件において、上告人は請求異議訴訟で本件債権の存在を主張し応訴しているが、判決の結果は公正証書作成における代表権欠如という形式的・手続的な理由に基づく請求認容であった。このため、訴訟の争点であった「本件債権の存否」という実体上の点については何ら判断が示されていない。このように、債権者の主張が実体判断にまで至らず、手続上の瑕疵によって退けられた場合には、権利を行使したという外形があるのみで、裁判上の請求としての実質を欠くため、時効中断の効力を認めるべき基礎を欠くといえる。
結論
債権者の応訴には、裁判上の請求に準ずる時効中断の効力は生じない。
実務上の射程
請求異議訴訟のみならず、債務不在確認訴訟等において被告(債権者)が応訴した場合の時効中断についても同様の論理が及ぶ。実体判断が得られないまま敗訴した場合には時効中断が認められないリスクがあるため、別途、差押えや裁判上の請求等、自ら積極的な中断措置を講じる必要性を示唆する。旧法下の判例であるが、現行法における「裁判上の請求」等の時効中断(更新・完成猶予)の解釈においても重要な指針となる。
事件番号: 昭和41(オ)30 / 裁判年月日: 昭和42年6月23日 / 結論: 破棄差戻
債務者が抗弁として金銭債権が消滅時効の完成によつて消滅した旨を主張し、右抗弁が理由のある場合には、裁判所は、債権者において再抗弁として当該債務の弁済期の猶予があつた旨を主張しないかぎり、右猶予によつて消滅時効が完成しないものと判断することはできない。