通謀による虚偽の登記名義を真正なものに回復するための所有権移転登記手続請求訴訟における被告敗訴の確定判決は、口頭弁論終結後被告から善意で当該不動産を譲り受けた第三者に対してその効力を有しない。
通謀による虚偽の登記名義を真正なものに回復するための所有権移転登記手続請求訴訟における被告敗訴の確定判決と口頭弁論終結後被告から善意で当該不動産を譲り受けた第三者
民法94条2項,民訴法201条1項,民訴法497条ノ2第1項
判旨
通謀虚偽表示による無効を対抗できない善意の第三者は、虚偽表示の当事者間における移転登記義務を承継するものではない。したがって、当該第三者が口頭弁論終結後の承継人に該当するとしても、承継執行文を付与して登記の抹消等を執行することは許されない。
問題の所在(論点)
通謀虚偽表示の当事者間で「名義回復」を命じる判決が確定した後、口頭弁論終結後に目的物を善意で取得した第三者に対し、当該判決に基づく承継執行文を付与して登記を回復させることができるか。すなわち、善意の第三者が民事訴訟法上の「承継人」として既判力・執行力の拡張を受けるか、民法94条2項との関係が問題となる。
規範
民法94条2項にいう「第三者」として保護される善意の者は、虚偽表示の当事者間における実体法上の権利義務関係(登記移転義務等)を承継するものではない。また、既判力の拡張や執行力の承継(民事執行法23条、民事訴訟法115条1項3号)は、あくまで実体法上の承継関係を前提とするものであるから、善意の第三者に対して前主との間の確定判決に基づく承継執行をすることは許されない。
重要事実
本件土地はAとDの通謀虚偽表示によりD名義で登記されていた。実質的所有者であるA(の破産管財人)は、Dに対し真正な名義回復を求める訴訟を提起し、昭和43年4月17日に口頭弁論が終結、A勝訴の判決が確定した。しかし、被上告人はこれらの事情を知らず善意で、同判決の口頭弁論終結後である同年6月27日に本件土地を競落し所有権移転登記を経由した。Aは、Dに対する確定判決に基づき、被上告人を承継人として承継執行文の付与を受け、自己への所有権移転登記を強行した。
あてはめ
被上告人は、A・D間の通謀虚偽表示について善意であるため、民法94条2項により、AはD名義の登記が無効であることを被上告人に対抗できない。この実体法上の効力は、A・D間の確定判決の存在によって左右されない。被上告人はDから土地を取得したものの、DがAに対して負っていた「登記移転義務」という個人的な債務を承継するものではない。したがって、被上告人は民訴法上の「承継人」としての不利益(執行の受忍義務)を負わず、これに対してなされた承継執行文の付与およびそれに基づく登記は違法かつ無効である。
結論
被上告人はDの義務を承継するものではないから、Aが被上告人に対し承継執行文を得て執行することは許されず、それに基づくなされた登記は無効である。
実務上の射程
民法94条2項の第三者保護と、口頭弁論終結後の承継人(既判力・執行力の拡張)の関係を整理した重要判例。善意の第三者が「承継人」に含まれるとしても、実体法上の保護が優先されるため、前主に対する判決の執行力を及ぼすことはできないとする。答案上は、民事訴訟法の承継人の範囲を論じる際、実体法上の対抗関係(94条2項等)によって既判力の遮断が生じる構成として活用する。
事件番号: 昭和42(オ)564 / 裁判年月日: 昭和43年8月2日 / 結論: 棄却
甲が乙から山林を買い受けて二三年余の間これを占有している事実を知つている丙が、甲の所有権取得登記がされていないのに乗じ、甲に高値で売りつけて利益を得る目的をもつて、右山林を乙から買い受けてその旨の登記を経た等判示の事情がある場合には、丙はいわゆる背信的悪意者として、甲の所有権取得について登記の欠缺を主張する正当な利益を…
事件番号: 昭和26(オ)107 / 裁判年月日: 昭和29年8月20日 / 結論: 破棄差戻
一 甲から不動産を買受けた乙が、丙にその所有権を移転する意思がないに拘らず、甲から丙名義に所有権移転登記を受けることを承認したときは、民法第九四条第二項を類推し、乙は丙が所有権を取得しなかつたことを以て善意の第三者に対抗し得ないものと解すべきである。 二 乙が買受けた不動産につき単に名義上所有権取得の登記を受けたにすぎ…
事件番号: 昭和42(オ)99 / 裁判年月日: 昭和44年5月27日 / 結論: 棄却
甲が乙の承諾のもとに乙名義で不動産を競落し、丙が善意で乙からこれを譲り受けた場合においては、甲は、丙に対して、登記の欠缺を主張して右不動産の所有権の取得を否定することはできない。