手形上の記載からは、手形の振出が法人のためにされたものであるとも、代表者個人のためにされたものであるとも解しうる場合には、手形所持人は、法人および代表者個人のいずれに対しても手形金の請求をすることができ、他方、請求を受けた者は、その振出が真実いずれの趣旨でされたかを知つていた直接の相手方に対しては、その旨の人的抗弁を主張することができる。
手形の振出が法人のためにされたものであるとも代表者個人のためにされたものであるとも解しうる場合における法律関係
手形法8条,手形法17条,手形法75条
判旨
手形上の記載から振出人が法人か代表者個人か判別し難い場合、手形取引の安全保護のため、所持人は法人および代表者個人のいずれに対しても手形責任を追及できる。
問題の所在(論点)
手形法上の署名(代理・代表)の解釈において、法人の名称と代表者個人の氏名が併記され、かつ代表関係の表示(肩書)を欠くなど、振出人が法人か個人か不明確な場合の責任帰属が問題となる。
規範
手形は文言証券であるため、法人のためにする旨の表示の有無は手形上の記載のみによって判定すべきであり、手形外の証拠によることは許されない。もっとも、記載自体から法人と代表者個人のいずれが振出人か判定し難い場合は、手形取引の安全を保護すべく、所持人は法人・代表者個人のいずれに対しても請求できる。ただし、請求を受けた者は、振出の真実の趣旨を知っていた直接の相手方に対しては、人的抗弁として責任を否定しうる。
重要事実
本件手形の振出人欄には、ゴム印によって「熊本市a町b、合資会社A、D」と表示され、D個人の印章が押捺されていた。会社名である「A」の部分は他の文字より大きく表示されていたが、代表関係を明示する「代表社員」等の文字はなかった。手形所持人である被上告人は、合資会社Aを振出人として手形金の支払を求めた。
あてはめ
本件手形の表示は、法人の名称と個人の氏名が併記されているにとどまり、法人が振出人であるとも、代表者個人が振出人であるともいずれにも解釈可能である。このように振出主体が客観的に判別し難い場合には、上述の規範に従い、手形所持人は選択的に責任を追及できる。本件では所持人である被上告人が上告人(法人)を振出人として請求している以上、上告人は振出人としての責任を免れない。
結論
上告人は本件手形の振出人としての責任を負う。したがって、上告を棄却する。
実務上の射程
記名代理(代表)における肩書欠落ケースに関するリーディングケースである。答案上は、文言証券性から手形外の証拠を排除しつつ、取引の安全の観点から「所持人からの選択的請求」を認めるロジックとして活用する。なお、悪意の直接相手方に対しては人的抗弁による対抗が可能である点もセットで押さえるべきである。
事件番号: 昭和40(オ)749 / 裁判年月日: 昭和40年12月10日 / 結論: 棄却
手形の署名自体は、事実行為であつて意思表示ではないから、これにつき代理はありえない。