無権代理人を相続した本人は、無権代理人が民法一一七条により相手方に債務を負担していたときには、無権代理行為について追認を拒絶できる地位にあつたことを理由として、右債務を免れることができない。
民法一一七条と無権代理人を相続した本人の責任
民法113条,民法117条,民法896条
判旨
本人が無権代理人を相続した場合、本人は無権代理人の地位を承継し、民法117条に基づく責任を免れることはできない。たとえ本人が追認を拒絶できる地位にあっても、相続によって承継した無権代理人の債務は当然に存続する。
問題の所在(論点)
本人が無権代理人を相続した場合に、本人は民法117条に基づく無権代理人の責任を相続により承継するか。また、本人が追認を拒絶できる地位にあることは、当該責任の承継に影響を及ぼすか。
規範
民法117条による無権代理人の債務は相続の対象となる。これは、本人が無権代理人を相続した場合であっても同様であり、本人は相続により無権代理人の債務を承継する。本人が追認拒絶権を有することを理由に、右債務を免れることはできない。
重要事実
無権代理人が本人の代理人と称して法律行為を行った後、当該無権代理人が死亡した。本人およびその他の者が、無権代理人を共同相続した。相手方は、無権代理人の責任(民法117条)に基づき、履行または損害賠償を求めた。これに対し相続人側は、本人が無権代理人を相続した場合には責任を負わない旨を主張して争った。
あてはめ
無権代理人の債務は一般に相続の対象となる性質のものである。本人が無権代理人を相続した際、本人は「本人としての地位」と「無権代理人の債務を承継した相続人としての地位」を併有することになる。本人が本人として追認を拒絶したとしても、それは無権代理行為の効果を本人に帰属させないという効果を持つに過ぎない。相続によって有効に承継された民法117条の法的責任(履行または損害賠償債務)自体を消滅させる理由にはならない。
結論
本人は無権代理人の債務を相続により承継する。また、共同相続人の一人が本人であるからといって、本人以外の相続人が債務を免れることもない。
実務上の射程
本人が無権代理人を相続した場合において、無権代理行為が当然に有効となるわけではない(最高裁昭和37年4月20日判決)としても、民法117条の責任は別個に発生・承継されることを明確にした。答案では、契約自体の有効性と117条の責任追及の可否を分けて論じる際の根拠として用いる。
事件番号: 昭和63(オ)1733 / 裁判年月日: 平成5年1月21日 / 結論: 破棄自判
無権代理人が本人を共同相続した場合には、共同相続人全員が共同して無権代理行為を追認しない限り、無権代理人の相続分に相当する部分においても、無権代理行為が当然に有効となるものではない。(反対意見がある。)