不動産の賃貸借において、賃借人が、約九年一〇か月の長期間賃料を支払わず、その間、当該不動産を自己の所有と主張して賃貸借関係の存在を否定し続けたなど原判示の事情(原判決理由参照)があるときは、賃貸人は、催告を要せず賃貸借を解除することができる。
賃料不払を理由とする不動産賃貸借の解除に催告を要しないとされた事例
民法540条,民法541条,民法601条,民法620条
判旨
賃借人が長期間賃料を支払わず、かつ賃貸借関係の存在そのものを否定して自己の所有権を主張し続けている場合には、信頼関係が基礎から破壊されているものとして、賃貸人は催告なしに契約を解除することができる。
問題の所在(論点)
賃借人が長期間の賃料不払に加え、賃貸借関係の存在そのものを否定している場合、民法541条の催告を欠いた解除が可能か(無催告解除の可否)。
規範
不動産賃貸借契約において、賃借人に賃料不払等の債務不履行がある場合、本来は民法541条に基づく催告が必要である。しかし、賃借人の不信行為により、契約の基礎となる信頼関係が破壊され、もはや契約の継続を期待し難い特段の事情がある場合には、賃貸人は無催告で契約を解除することができる(信頼関係破壊の法理)。
重要事実
賃借人Aは、被承継人Dの代から約9年10か月の長期間にわたり、賃料を一切支払わなかった。さらにAは、当該不動産について、被上告人(賃貸人)の所有権を否定し、自己の所有物であると主張して、賃貸借関係の存在自体を頑なに否定し続けていた。
あてはめ
本件では、約10年という著しく長期にわたる賃料の不払が存在する。加えて、Aは単なる履行遅滞にとどまらず、不動産の所有権が自己にあると強弁し、賃貸借関係を否定し続けている。このような態度は、賃貸借契約の根幹をなす信頼関係を基礎から破壊するものであり、改めて支払を催告したとしても誠実な履行を期待することはできないと評価される。したがって、無催告解除を認めるべき特段の事情があるといえる。
結論
賃貸人による無催告解除は有効であり、所有権に基づく不動産明渡請求は認められる。
実務上の射程
賃料不払による解除において、無催告解除が認められる典型例の一つ(信頼関係の破壊)として引用すべき判例である。答案上では、単なる不払期間の長さだけでなく、「関係自体の否定」といった賃借人の主観的な態度を事実として拾い、信頼関係破壊の程度を強調する際に用いる。
事件番号: 昭和41(オ)1285 / 裁判年月日: 昭和42年3月31日 / 結論: 棄却
借地権の無断譲渡がされた場合、それが賃貸人に対する賃借人の背信行為となるのは、賃貸人が譲受人の賃料の支払能力、態度に不安を感じる場合にかぎられない。
事件番号: 昭和29(オ)642 / 裁判年月日: 昭和31年6月26日 / 結論: 棄却
賃貸借の継続中、当事者の一方に、その義務に違反し信頼関係を裏切つて 賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為のあつた場合には、相手方は民法第五四一条所定の催告を要せず賃貸借を将来に向つて解除することができるものと解すべきである。
事件番号: 昭和42(オ)1396 / 裁判年月日: 昭和44年11月27日 / 結論: 棄却
建物所有を目的とする土地賃借人が、一三年間にわたり賃料合計一四万七三九六円のうち一一万七三九六円を延滞していたとしても、賃貸人が解除の意思表示をした当時、その延滞賃料の支払を求める訴訟が調停に付され、その調停が進行中であり、判示のような経緯で遅滞の状態の解消への過程にあつて、そのための努力が払われていた以上、賃貸借契約…
事件番号: 昭和31(オ)1049 / 裁判年月日: 昭和33年6月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃借人が賃貸人の制止を無視して無断で大修繕を行った場合、それが賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめる不信行為に該当するときは、賃貸人は催告なしに契約を解除できる。 第1 事案の概要:賃借人(上告人ら)は、賃貸人(被上告人)からの明確な制止を受けていたにもかかわらず、これを無視して本件建物の「大修繕…