建物の将来における賃料債権の差押の効力発生後にあつては、差押債務者がする右賃料債務の免除は、差押債権者を害する限度において同人に対抗できない。
将来における賃料債権の差押と右賃料債務の免除
民訴法604条,民訴法598条
判旨
賃料債権の差押命令が第三債務者に送達された後は、差押債務者が行う賃料債務の免除は、事情のいかんを問わず、差押債権者を害する限度で対抗できない。
問題の所在(論点)
賃料債権の差押命令が第三債務者に送達された後に、差押債務者が第三債務者に対して行った賃料債務の免除は、差押債権者に対抗できるか。民事執行法上の差押えの処分禁止効の範囲が問題となる。
規範
将来における継続収入の債権である賃料債権の差押えは、差押債権額を限度として、差押後に発生する賃料に及ぶ(民事執行法151条参照)。したがって、第三債務者に対する差押命令の送達により効力が発生した後は、基本となる賃貸借契約が存続する限り、差押債務者が行う賃料債務の免除は、その事情のいかんにかかわらず、差押債権者を害する限度において差押債権者に対抗できない。
重要事実
債務者Dは、第三債務者である上告人に対し建物を賃貸していた。被上告人(債権者)は、Dが上告人に対して有する賃料債権を差し押さえ、上告人に差押命令が送達された。その後、Dは建物の敷地所有者から提起された建物収去土地明渡訴訟に敗訴したことを理由に、上告人(賃借人)に対して将来の賃料債務を免除した。被上告人が上告人に対し、差し押さえた賃料の支払いを求めたところ、上告人は右免除を理由に支払いを拒んだ。
あてはめ
本件において、被上告人による賃料債権の差押命令は上告人に送達されており、その効力は発生している。免除の経緯として、差押債務者Dが土地明渡訴訟に敗訴したという事情があるものの、差押えの効力が発生した以上、免除の動機や事情は考慮されない。Dによる免除は差押債権者である被上告人の取立権を侵害するものであり、「差押債権者を害する限度」に該当する。したがって、右免除は被上告人に対抗できず、被上告人からの賃料請求を拒むことはできない。
結論
賃料債務の免除は、差押債権者を害する限度において対抗できず、上告人は被上告人に対して賃料支払義務を負う。本件上告は棄却される。
実務上の射程
本判決は、金銭債権の差押え(民事執行法145条以下)における処分禁止効について、債務者による『免除』も禁止される処分に含まれることを明示したものである。実務上は、差押え後の債務者・第三債務者間の合意による債権消滅行為(相殺合意や免除)を封じる有力な根拠となる。ただし、賃貸借契約自体の合意解約や、不履行による解除に伴う賃料債権の消滅についてまで一律に否定するものではない点に留意が必要である。
事件番号: 昭和43(オ)1270 / 裁判年月日: 昭和44年4月15日 / 結論: 棄却
賃貸人が借家法七条により額を定めて賃料値上の請求をしたときは、その範囲内において客観的に値上を相当とする額につき将来に向つて値上の効力を生ずるが、たといその後において値上の事由が発生しても、新たに値上の請求をしない限り、さきにした請求の範囲内においてさらに値上の効力を生ずるものではなく、このことは、値上賃料支払請求訴訟…