使用者の施工にかかる水道管敷設工事の現場において、被用者が、右工事に従事中、作業用鋸の受渡しのことから、他の作業員と言い争つたあげく同人に対し暴行を加えて負傷させた場合、これによつて右作業員の被つた損害は、被用者が事業の執行につき加えた損害にあたるというべきである。
被用者が事業の執行につき第三者に加えた損害にあたるとされた事例
民法715条
判旨
被用者が第三者に対して加えた暴行が、事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有すると認められる場合には、民法715条1項の「事業の執行につき」に該当する。
問題の所在(論点)
被用者が業務時間中に私的な争いから暴行を加えた場合、民法715条1項の「事業の執行につき」に該当するか。特に、本来の職務内容に含まれない暴行行為と事業執行との関連性をいかに判断すべきか。
規範
民法715条1項の「事業の執行につき」とは、被用者の職務権限内の行為のみならず、行為の外形から判断して、被用者の職務の範囲内の行為と認められる場合を含む。また、被用者の加害行為が、事業の執行行為を「契機」とし、これと「密接な関連」を有すると認められる場合にも、同条の責任を負うものと解すべきである。
重要事実
土木建築業を営む上告会社の被用者Dは、上水道管敷設工事に従事中、同じ現場で作業していた被上告人に対し「鋸を貸してくれ」と声を掛けた。被上告人が鋸をDに向けて投げたことから、両名間で言い合いとなり、最終的にDが被上告人に対し暴行を加え、損害を負わせた。
あてはめ
Dの暴行は、工事現場における作業用具(鋸)の貸し借りを端緒として発生している。この貸し借り自体は工事の円滑な遂行に必要な職務に関連する行為であり、暴行はこの「執行行為を契機」として生じたものである。また、工事現場という職務遂行の場において発生した一連のやり取りの延長線上の行為であるから、客観的にみて職務と「密接な関連」を有すると認められる。したがって、私情による暴行であっても、なお事業の執行につきなされたものといえる。
結論
Dによる暴行は民法715条1項の「事業の執行につき」なされたものに当たり、上告会社は使用者責任を負う。
実務上の射程
本判決は、外形標準説を前提としつつ、暴行のような不法目的の行為についても「契機・密接関連性」という規範を用いて広く使用者責任を認める実務の確立した立場を示す。答案上は、職務それ自体ではない行為(暴行等)の論点において、本件のように業務遂行上の接触が原因であれば広範に肯定する方向で検討すべきである。
事件番号: 昭和32(オ)990 / 裁判年月日: 昭和34年4月23日 / 結論: 棄却
タクシー会社に自動車運転助手兼整備係として雇われ、会社からの注意にもかかわらず運転資格も持たないで、平素洗車給油等の目的で車庫から給油所まで短距離の間営業用自動車の運転をしていた者が、運転技術修得のため他の場所で同会社の営業用自動車を運転中、追突事故により他人に損害を与えたときは、右損害は同会社の「事業の執行ニ付キ」生…