一、特定の旅館の宣伝用。パンフレットのように、性質上、その内容、体裁等を注文者の個別的注文に合わせて作成するものであつて、本来その製品の流通を予定していないものの代金債権は、民法一七三条一号の産物および商品の代金債権にあたらない。 二、近代工業的な機械設備を備えた製造業者は、民法一七三条二号の製造人にあたらない。
一、民法一七三条一号の債権にあたらないとされた事例 二、民法一七三条二号の製造人にあたらないとされた事例
民法173条1号,民法173条2号
判旨
旧民法173条1号・2号の短期消滅時効は、注文者の個別的注文に合わせた非流通的な製品の代金債権や、近代工業的規模の製造業者による債権には適用されない。
問題の所在(論点)
個別注文に基づき作成された流通性のないパンフレットの代金債権が、旧民法173条1号の「産物および商品の代金債権」に該当するか。また、相当規模の印刷会社が同条2号の「製造人」に該当するか。
規範
1. 旧民法173条1号(産物・商品の代金債権)の趣旨は、流通性の高い物品の代金決済を早期迅速に処理することにある。したがって、内容・体裁等が注文者の個別的注文に合わせて作成され、製品の流通が予定されていない場合には、同条項の債権に該当しない。 2. 同条2号(製造人の仕事に関する債権)の趣旨は、手工業・家内工業的規模で仕事をする者の決済が社会実情として短期になされることにある。したがって、近代工業的な機械設備を備えた規模の製造業者はこれに含まれない。
重要事実
被上告人(印刷会社)は、資本金4,480万円、従業員230名を擁し、高度な技術を要する高級印刷物の製造販売を目的とする相当規模の会社であった。被上告人は、旅館を経営する上告人に対し、当該旅館の宣伝用パンフレットを作成・納品し、その代金債権を有していたが、上告人は当該債権が2年の短期消滅時効により消滅したと主張した。
あてはめ
1. 本件パンフレットは旅館の宣伝用であり、注文者の個別的注文に合わせて作成される性質上、第三者への流通を予定していない。よって、決済の迅速性が求められる一般の「商品」には当たらず、1号の適用は否定される。 2. 被上告人は、従業員数や資本金の規模からみて近代工業的な機械設備を備えた製造業者であり、2号が想定する手工業・家内工業的規模の「製造人」とはいえない。よって、2号の適用も否定される。
結論
本件印刷物の代金債権について、旧民法173条による2年の短期消滅時効は適用されない。
実務上の射程
本判決は、現行民法では短期消滅時効(170条〜174条)が廃止され、時効期間が原則として統一(166条1項)されたため、実質的な射程は失われている。ただし、旧法下の事案や、条文の趣旨から限定解釈を行う際の手法(制度の趣旨に照らした限定的なあてはめ)の好例として参照し得る。
事件番号: 昭和39(オ)1097 / 裁判年月日: 昭和42年3月10日 / 結論: 棄却
漁業協同組合は、民法第一七三条第一号にいう生産者または卸売商人にあたらない。