一、同一事故により生じた同一の身体傷害を理由として財産上の損害と精神上の損害との賠償を請求する場合における請求権および訴訟物は、一個である。 二、不法行為に基づく一個の損害賠償請求権のうちの一部が訴訟上請求されている場合に、過失相殺をするにあたつては、損害の全額から過失割合による減額をし、その残額が請求額をこえないときは右残額を認容し、残額が請求額をこえるときは請求の全額を認容することができるものと解すべきである。
一、身体傷害による財産上および精神上の損害の賠償請求における請求権および訴訟物の個数 二、不法行為による損害賠償の一部請求と過失相殺
民訴法186条,民訴法224条1項,民法709条,民法710条,民法722条2項
判旨
同一事故による身体傷害から生じる財産上の損害と精神上の損害の賠償請求権は1個の訴訟物である。また、損害賠償請求権の一部が請求されている場合の過失相殺は、損害全額から過失減額を行い、残額が請求額を超えるときは請求額を、超えないときはその残額を認容する外側説を採用すべきである。
問題の所在(論点)
1. 同一の身体傷害から生じる財産上の損害と精神上の損害の請求は、別個の訴訟物か。 2. 不法行為に基づく損害賠償請求権の一部請求において過失相殺を行う場合、控除の対象となる基準額は損害の全額か、それとも請求額か。
規範
1. 同一の身体傷害を理由とする財産上の損害と精神上の損害は、原因事実および被侵害利益を共通にするため、賠償請求権は一個であり、その両者を併せて請求する場合の訴訟物も一個である。 2. 損害賠償請求権の一部が訴訟上請求されている場合に過失相殺をする際は、損害の全額から過失割合による減額をし、その残額が請求額を超えるときは請求の全額を、残額が請求額を超えないときは当該残額を認容すべきである(いわゆる「外側説」)。
重要事実
被上告人Bは、自動車事故により負傷し、第一審において療養費、逸失利益、慰謝料の損害を主張した。このうち逸失利益については内金として一部請求を行い、合計379万6266円を請求した。第一審判決は、認定した損害総額1145万6880円から3割の過失相殺(および保険金控除)を行い、残額が請求額を上回ったため請求全額を認容した。原審は、過失相殺の割合を7割と重く認定し直したが、損害全額を基礎とした計算結果に基づき一部認容判決を下した。これに対し上告人が、請求額を基礎として過失相殺を行うべきである(按分説)と主張して上告した事案である。
あてはめ
1. 本件における療養費、逸失利益(財産上の損害)および慰謝料(精神上の損害)は、いずれも同一の事故・傷害を原因とする。したがって、これらを一括して請求する本件の訴訟物は一個であり、項目ごとに別個の判断を要するものではない。 2. 過失相殺において、一部請求をする当事者の通常の意思は、発生した損害のうち過失相殺後の残額について、請求額の限度で賠償を得る点にあると解される。本件において、認定された損害全額から過失割合に応じた減額を行った後の残額が、当初の請求額の範囲内であれば、その金額をそのまま認容することが一部請求の趣旨に合致する。上告人が主張するような、請求額を基礎としてさらに減額する手法は相当ではない。
結論
1. 同一事故による損害賠償請求の訴訟物は一個である。 2. 一部請求における過失相殺は、損害全額から控除を行う外側説によるべきであり、原審の判断は正当である。
実務上の射程
一部請求がなされた場合の過失相殺の計算方法を決定づけた重要判例である。答案上は、過失相殺の対象を「損害の全額」と明記し、訴訟物については財産的損害と精神的損害を不可分なものとして扱う際に引用する。また、いわゆる「外側説」を採る論拠として、一部請求をする者の合理的な意思解釈を用いる点が実務上のポイントとなる。
事件番号: 昭和31(オ)444 / 裁判年月日: 昭和32年12月24日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】金銭賠償を求める損害賠償請求訴訟において、裁判所が原告の主張する個別の損害項目ごとの金額を超えて損害額を認定し、支払を命ずることは、処分権主義に反し許されない。 第1 事案の概要:不法行為に基づき物品(戸棚2個、飾戸1個、窓硝子5枚等)を破壊されたとして損害賠償を求めた事案。被上告人(原告)は、戸…