昭和三七年法律第四四号による改正前の旧所得税法(昭和二二年法律第二七号)のもとにおいて、雑所得として課税の対象とされた金銭債権が後日貸倒れによつて回収不能となつた場合に、その貸倒れの発生と貸倒額とが客観的に明白で、課税庁に格別の認定判断権を留保する合理的必要性がないと認められるときは、当該課税処分そのものが取消又は変更されなくても、国は、同処分に基づいて先に徴収した所得税のうち右貸倒額に対応する税額を不当利得として納税者に返還する義務を負うものと解すべきである。
昭和三七年法律第四四号による改正前の旧所得税法(昭和二二年法律第二七号)のもとにおいて雑所得として課税の対象とされた金銭債権が後日回収不能となつた場合と徴収税額についての不当利得の成否
民法703条,旧所得税法(昭和22年法律第27号、ただし昭和37年法律第44号による改正前のもの)9条1項10号,旧所得税法(昭和22年法律第27号、ただし昭和37年法律第44号による改正前のもの)10条,旧所得税法(昭和22年法律第27号)10条の6第1項,旧所得税法(昭和22年法律第27号)27条の2
判旨
権利確定主義に基づく課税後、債権の貸倒れにより課税の前提が失われた場合において、貸倒れの事実が客観的に明白であれば、課税庁の更正を待たずに既納税額は法律上の原因を欠く不当利得となる。
問題の所在(論点)
権利確定主義の下で適法に成立した課税処分の後、対象債権が貸倒れとなった場合において、課税庁による更正処分等の取消しを経ることなく、既納税額を不当利得として返還請求できるか。後発的事由による課税処分の効力の帰趨が問題となる。
規範
所得税法が採用する権利確定主義は、将来の現実の支払を前提とした所得帰属年度の決定基準にすぎず、実質的には「未必所得に対する租税の前納」の性格を有する。したがって、課税後に債権が貸倒れ等により回収不能となった場合は、課税の前提が失われるため、当然に是正が要請される。もっとも、課税処分が遡って無効となるわけではないが、貸倒れの発生とその数額が客観的に明白で、課税庁の認定判断権を留保する合理的必要性がない場合には、課税庁による更正等の是正措置がなくても、当該課税処分の効力を主張できなくなり、既収税額は不当利得として返還すべきものとなる。
重要事実
納税者(被上告人)は、非事業上の金銭消費貸借から生じた利息損害金債権につき、昭和28年分の雑所得として更正処分を受け、滞納処分により税額を徴収された。しかし、その後、債務者の経済状況等から当該債権が回収不能となり、昭和36年に裁判上の和解によって債権を全て放棄した。納税者は、貸倒れによって課税の前提が失われたとして、国に対し既納税額の返還を求めた。
あてはめ
本件では、被上告人が裁判上の和解により債権を放棄するに至った経緯から、貸倒れの事実およびその数額は客観的に明白であるといえる。このような場合、課税所得の算定につき課税庁の専門的な認定判断権を留保する必要性は認められない。したがって、権利確定主義の反面としての是正要請が強く働き、課税庁が自ら是正措置を講じない以上、国はもはや当該課税処分の効力を維持する正当な理由を欠く。その結果、既徴収の税額は法律上の原因を欠く利得となり、不当利得返還義務が生じると解される。
結論
貸倒れが客観的に明白な場合には、更正処分を待たずとも、国は既収税額を不当利得として返還する義務を負う。本件上告は棄却される。
実務上の射程
権利確定主義の例外的な是正手段として不当利得返還請求を認めた判例である。現在は「更正の請求」等の制度が整備されているが、本判決の「権利確定主義は未必所得の前納的性格を有する」という趣旨は、所得概念や実質課税の原則を論じる際の指導原理として重要である。答案上は、後発的事由による救済の可否が問われる場面で、客観的明白性を要件とする判断枠組みを援用する。
事件番号: 昭和35(オ)674 / 裁判年月日: 昭和38年12月24日 / 結論: 破棄自判
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